日本の刑事事件では、起訴されると有罪になる確率は99.5%を超える。なぜこれほど高いのか。弁護士の郷原信郎さんは「検察の捜査能力が高いわけではなく、内情は起訴内容に都合のいい自白を引き出すまで、被告人の身柄を延々と拘束する『人質司法』が横行している。そこには、特捜部等の判断で事件化される『立件型事件』特有の構図がある」という――。

※本稿は、郷原信郎『“歪んだ法”に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)の第1章「刑事司法が『普通の市民』に牙をむくとき」を加筆、再編集したものです。

裁判官の小槌
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大阪地検特捜部による「人質司法」の非道

大阪市に本社を置く総合ディベロッパー・プレサンスコーポレーション元社長の山岸忍氏は、大阪地検特捜部に逮捕されたが、無実を訴えていた同氏の保釈は6回にわたって却下され、248日にわたって勾留された。典型的な「人質司法」だった。2021年11月に一審無罪判決に対して検察は控訴を断念、無罪が確定した山岸氏は、取調べ担当検察官らの不法行為について国賠訴訟を提起している。

大阪地検特捜部の証拠改ざん事件等の不祥事の際には、検察は、「引き返す勇気」を強調していたが、山岸氏の事件では、逮捕、勾留容疑について、当初の見立てが誤っていたことが明らかになっても、検察は、引き返そうとしないどころか、山岸氏の無罪の訴えを、「人質司法」で封じ込めようとする「非道」を続けた。山岸氏のように、検察と戦い勝利するケースは、極めて稀だ。

そのような刑事司法の脅威に、突然さらされるのは、普通に仕事をし、暮らしている企業人や市民だ。読者の貴方にとっても、決して他人事ではない。拙著『“歪んだ法”に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)第1章では、銀行出身の経営コンサルタント、人材紹介サービスの起業家など「普通の市民」が、検察捜査の脅威にさらされ、圧し潰されいく“恐ろしい現実”を描いている。

「発生型事件」と「立件型事件」

日本では、日々、現場警察官の犯罪捜査、犯人検挙、検察官の捜査・処理などによって犯人が検挙され、事件の真相が解明され、大部分の事件については「適切な刑事処分」が行われている。しかし、その中でも、警察・検察の誤った判断によって事件が立件され、逮捕・起訴が行われることもあり得る。そのような場合に、裁判所が、被告人の無罪主張に十分に耳を傾け、「疑わしきは被告人の利益に」という原則にしたがっていると言えるのか、そこには多くの疑問がある。

刑事裁判の展開も、窃盗、強盗、殺人などのように被害の「発生」によって捜査が開始される「発生型事件」と贈収賄、経済犯罪などのように、捜査機関が刑事事件としての「立件」の判断をする「立件型事件」とでは、かなり状況が異なる。