「立件型」では、有罪判決断念で捜査機関の面子がつぶれる

しかし、実際には、「立件型」の事件の場合、捜査機関側は被疑者が無実だと訴え、被告人が無罪を主張し、捜査機関側の当初の判断が誤っていた可能性が生じても、誤りを認めようとはしない。有罪判決に持ち込むために異常なまでのこだわりを見せる。不利な状況になっても、決して諦めない。まさに、山岸氏の事件がその典型例だ。

それは、有罪判決を断念することで、その事件を「立件」したこと自体が間違っていたと認めることになり、捜査機関側の面子がつぶれ、立件の判断をしたことの責任が問われることになるからだ。

このように、同じ刑事事件でも、「発生型」と「立件型」では、事件をめぐる構造が大きく異なる。しかも、一般的に言えば「発生型」の事件は、犯罪の世界とかなり親和性を持っている人間が犯人とされる場合が多いが、「立件型」の事件は、それまで犯罪とは全く縁がなかった「普通の市民」が突然に犯罪の疑いを受けることも多い。

後ろ手に手錠をかけられた人
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無罪主張をすれば、身柄拘束が延々と続く

立件の判断が不合理で理不尽なものであっても、捜査機関側は、一度立件したら、決して引き返そうとしない。検察官は、有罪判決を得ることに拘り続ける。そこで、無罪主張を抑え込むための手段として使われるのが、犯罪事実を否認し、無罪主張をしようとする被告人は、身柄拘束が延々と続くという「人質司法」だ。

裁判所も、「人質司法」を容認して保釈を認めず、捜査機関や検察官の主張を何とか認めようとし、被告人の訴えに耳を傾けようとしない。

特捜検察が関わった「立件型」事件での「人質司法」の代表的事例が、冒頭でも述べた山岸氏の冤罪事件だ。

山岸氏はある土地の売買をめぐり、業務上横領容疑で大阪地検特捜部に逮捕、起訴された。自身の横領容疑についての逮捕から裁判までの経過を描いた迫真のノンフィクション『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋)には、248日に及ぶ勾留中の記録が克明に綴られている。