「中国にいる親族がどうなってもいいのか」

留学生など、一般の中国人をこうした工作に参加させる場合、「祖国に貢献したくないのか」と迫るケースの他に、「中国にいる親族がどうなってもいいのか」と脅迫するケースもあるようです。

留学生に協力を迫ったこの女性の夫は、中国人民解放軍のサイバー攻撃部隊に所属していたこともわかっています。そして女性の夫が所属する部隊は、実際に日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)や航空関連企業に対してサイバー攻撃を行っていたのです。

元留学生は間接的にかかわったにすぎませんが、全体としてみれば日本に対するサイバー攻撃の一端を担ったことになってしまいました。

中国軍のサイバー攻撃のために、在外中国人、それも留学生まで使う。こうした中国のやり方に、アメリカは警戒感を強めています。

2022年7月には、ロンドンでMI5(保安部)のマッカラム長官と、FBI(アメリカ連邦捜査局)のレイ長官が合同で企業向けの講演会を行い、「中国のやり方に気をつけろ!」と警告を発しました。

それによれば、中国は欧米企業の機密情報を盗むためにさまざまな手段を講じており、サイバー攻撃はもちろん、協力者を使った情報の窃取を行っているといいます。

そして習近平が掲げた「中国製造2025」、つまり中国が2025年までに製造業で世界の頂点に立つという目標を達成するために、手段を選ばず攻撃を仕掛けてきている、と断言しました。

習近平総書記(写真=China News Service/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

スパイの約4割が民間人

最も気をつけるべきは「千粒の砂」という戦略で、「中国共産党は、かつてのように外交官を偽装する工作員を使わない。さまざまなチャンネルを通じて情報を集めている」と指摘したのです。

「千粒の砂」とは、いわゆる工作員や外交官を使うのではなく、世界中に散らばっている中国人をその都度、情報活動に利用する戦略のことです。

もともと中国は、特定のスパイに基づかず、多くの人手を使ってできるだけ多くの断片情報を集め、そこから使える情報を精査する手法を使っていました。これを「千粒の砂の中に一粒の砂金がある」と称したことから、中国の情報活動の姿勢や方針が「千粒の砂」戦略と呼ばれるようになりました。

実際、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が、2000年から2019年初頭にかけてアメリカで起きた中国と関連したスパイ事件を確認したところ、137件の事件報告のうち、57%が「中国の軍人または政府職員」だった一方、36%が「中国の民間人」だったと指摘されています。

実にスパイ事件の4割近くが、特別な訓練を受けたわけではない「民間人」とは驚きます。