中国は世界でどのような諜報活動を行っているのか。ジャーナリストの池上彰さんは「情報機関に属する職員だけではなく、留学生や研究者などの民間人が国から要請を受け機密情報を盗むなどのスパイ活動を行っている」という――。(第1回)

※本稿は、池上彰『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)の一部を再編集したものです。

中国の旗の背景に現代の戦略的ロケットミサイル
写真=iStock.com/Leestat
※写真はイメージです

アメリカが警戒する「孔子学院」の正体

2010年代以降、米中対立が強まる中、アメリカが「中国がアメリカ国内の対中言論をコントロールするプロパガンダの拠点になっている」として警戒しているものの一つが、各大学などに設置されていた「孔子学院」です。

表向きには「中国語や中国文化を無償で教える教育センター」だとして、中国はその地域の教育機関などと連携し、世界中にこの孔子学院を設置してきました。中でもアメリカはこの孔子学院の最大の進出国で、その数は最盛期には120校にものぼっていました。

しかしその実態は中国のインテリジェンス機関である統一戦線工作部から資金や指示の出ている、まぎれもない中国の工作機関なのではないか、との指摘が相次ぎ、2014年頃から2020年までの間にかなりの数の孔子学院が閉鎖されてきました。

こうした、一見スパイ活動や対外情報活動とは関係なさそうな組織を使うのは中国の得意技です。他にも、海外に多く居住している中国系の住民(華僑)なども含め、関係国との間に友好団体を作り、文化や芸術、交流活動などを行いながら、実際には中国・共産党の意向に沿った情報活動や、中国に友好的な外国人を獲得し、育てる役割も果たしています。

中国の法律にある恐ろしい内容

さまざまな理由で海外にいる中国人を、情報機関の職員でもないのに自国の情報活動に利用する。現在も、これが中国のインテリジェンス活動の大きな特徴です。

しかも、中国では2017年に国家情報法が施行されました。この法律には「いかなる組織及び個人も、法律に従って国家の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならない。国は、そのような国民、組織を保護する」(第7条)と定められています。

つまり、海外にいる中国人であっても、「国家に必要な情報を提供しなさい」と命じられれば、それに従わなければならない、ということです。

実際、日本の大学に留学していた中国人留学生が、サイバースパイの片棒を担がされていた事件が発覚しています。

中国のハッカー集団が足場として使っていたレンタルサーバーを、留学生が偽名で契約していたのです。この留学生は、中国在住の女性から「レンタルサーバーを偽名で借りてほしい」「日本のUSBメモリを購入して中国に送ってほしい」などと頼まれ、言うことを聞いてしまったのです。

しかし徐々に注文がエスカレートし、「日本企業しか買えないセキュリティーソフトを、日本企業に成りすまして購入しろ」と指示され、断ったところ「国に貢献しろ」などと協力を強要されたといいます。