それが口コミで広がり、利用希望者が殺到。受け入れ人数を拡大するため、2018年6月に第2事業所の「メダカフェ」、2021年12月には第3事業所の「めだかやドットコムミュージアム」をオープンした。どちらもカフェやセレクトショップのような造りで、ふらっと入ってきた人は福祉事業所と気づかないだろう。ここから一般就労する人たちも増えていて、2020年に2人、2021年には3人があやめ会を卒業した。

「うつでどん底だった僕の言葉がみんなに刺さるんだと思います。例えば、歩け歩けと言われても、歩きたくなければ歩かなくていいんだ、歩きたくなったら歩くんだって伝えているんですよ。それは、僕がうつ病を患っている時、福祉に目覚めることでやる気が出て、身体が動くようになるという経験をしたから。そういうきっかけを待ちなさい、でもそのきっかけは部屋のなかにはないから通所してくるようにと言っています。めだかの飼育を通じてなにかしらそういうきっかけを得た子たちは、元気になって就労していきますね」

写真提供=青木さん
事業所の利用者に話をする青木さん。

コロナ禍に新会社を立ち上げた

現在、3つの事業所の利用者は合計100人を超えており、平均工賃は2万円。めだか事業で得た利益は利用者に全額還元するため、めだか事業だけで毎月約200万円を売り上げていることになる。一般就労の人数を含めて、あやめ会は全国のB型の事業所のなかでも屈指の成績を上げており、起業から6年で1事業所あたり1億円の収益をあげるようになった。

……と書くと、いかにも順風満帆だが、新型コロナウイルスのパンデミックの時には、「終わったな……」と頭を抱えたそうだ。あやめ会が得る「訓練等給付費」は、利用率から算定される。コロナ禍で通所してくる人が激減すれば、給付費も同様に減額されるのだ。

2020年4月のある日、緊急事態宣言が発令されて利用者もスタッフもいないオフィスに泊まり込み、ひとりでめだかの面倒を見ていた青木さんは、「ほんと儚いな。カッコイイ福祉を作ろうと思ってここまでやってきたのに……」と落ち込んでいた。

しかし、そこから闘病中に福祉に出会った時のような活力が、腹の底から湧いてきた。

「今だからこそ、誰もやっていないことをやってやろう」

それから2カ月後、青木さんは株式会社「めだかやドットコム」を設立。翌年の2021年2月には、駅ビル「オーパ」に直営店を開いた。めだか水槽やオリジナルアパレルなどを売るこの店は福祉事業所ではなく、一般企業。ここで、あやめ会が運営するB型事業所を卒業した3人を社員として雇用している。

筆者撮影
今年の春にはもうひとり、あやめ会の卒業生が勤務予定。

なぜコロナ禍の逆風で新会社を作り、事業所の利用者の受け皿を作ろうと思ったのですか? と聞くと、ニヤリと笑った。

「気合いですね。僕は中学生の時、落合信彦さんに心を打たれて、大きな夢を抱こうと思いました。だから次は、自分が落合信彦さんのように若い子たちを元気づける立場になろうと思ったんですよ」