独立して始めた「カッコイイ福祉」

障害者福祉施設でも5年勤め、福祉業界について十分学んだと判断した青木さんは2016年、独立して株式会社あやめ会を創立した。

あやめ会は、障害者の就労継続支援B型事業を手掛ける。B型の場合、雇用契約を結ばずに障害者が働く事業所を運営し、利用者はそこで「就労訓練として行う生産活動」としてクッキーを焼いたり、花を育てたりする。その売り上げを「工賃」として利用者でシェアする仕組みだ。

雇用契約を結び定期的に働くことを前提とする就労継続支援A型の事業所と比べると、B型の利用者は仕事をして対価を得るというよりは、生活のサポートという意味合いが強い。ちなみに、全国にはB型の事業所が1万4393カ所あり、利用者は約26.9万人に及ぶ(厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」より)。生産活動として作ったものを売るのはどこの事業所にとっても課題で、工賃は全国平均で1万6507円にとどまっている。

事業所の主な収入は、自治体から支給される「訓練等給付費」。これは、各月の事業所の利用率と平均工賃をもとに算定される。利用者がたくさんいて平均工賃が高ければ、訓練等給付費も増えるというわけだ。

青木さんは2016年10月、「カッコイイ福祉」を掲げて八王子に就労継続支援B型事業所「めだか販売店」を開いた。当初の予定通り、「就労訓練として行う生産活動」としてめだかの飼育と水質浄化システムで使うバクテリアの育成を取り入れた。こだわったのは、事業所のデザインだ。

めだか販売店
筆者撮影
駅ビル「オーパ」の店舗に飾られているあやめ会の大きな暖簾。

「自分自身がうつ病で苦しんでいた時、一番つらかったのはプライドを傷つけられることだったんです。だから、もし自分の子どもが僕みたいな悩みを抱えても、堂々とここで頑張っているんだって言えるように明るくておしゃれな場所にしました。福祉事業所とも書いていないから、普通のお店にしか見えないと思います」

あやめ会の事業所に利用希望者が殺到

利用者は「めだか販売店」に通い、スタッフのもとでめだかの飼育、バクテリアの育成、接客などを学ぶ。めだか界の有名人、青木さんが率いるあやめ会のめだかやバクテリアはニーズが高く、初月から利用者の平均工賃2万5000円を実現。その評判を聞きつけ、半年で利用者が25人に増えた。

めだか販売店の広告看板
筆者撮影
あやめ会が八王子の町なかで掲出している「めだか」看板。

特筆すべきは、初年度から一般企業で働くようになった(一般就労)利用者が2人も現れたこと。B型の利用者は一般的に、雇用契約を結ぶA型の利用者よりも障害の程度が重いとされる。そのB型の利用者が、A型を飛び越して一般企業で仕事を得るのは異例と言ってもいいだろう。

この実績に加えて、めだかブームが到来。日本のペット市場で犬、猫の次につけるほどの人気になり、めだかの売り上げも伸びて、工賃が3万円を超える利用者も出てきた。