「表参道の美容室」にスタッフを通わせる理由
スタッフで最も多いのは、7割を占める利用者の母親だ。彼女たちの中には、わが子の障害に責任を感じ、自己肯定感が低い人も多い。しかし、母親が自分のせいで泣いて過ごしているのでは、その子どもたちが楽しくないのは容易に想像がつく。
だからこそ、スタッフにはオシャレして前向きな気持ちになってほしい。そうした思いから、アイムでは「美容手当」を支給している。最低でも1年に2回、都内・表参道の美容室で、カットとカラーができる。地元にしていないのは、定期的におしゃれな環境に接してほしいという思いからだ。1回あたり2万円。40人のスタッフがいるから、かなりの支出だ。
「給与に足して支給しても、お母さんは自分のためには使わない。だから美容院にタダで行ってもらって、後から僕が清算しています」
そこまでするのかと思われるかもしれないが、GAKUさんのアシスタントとして働く古田ココさんはこう話す。
「私は以前、ファッションデザイナーの仕事をしていたのですが、身内に障害者がいることで福祉業界に興味をもち、施設で働こうと思って面接に行きました。
ところが、どの施設でも容姿を指摘されました。『髪は染めない、ネイルも禁止』というのが業界のルールなんです。我慢できる人もいるかもしれないけど、私はこれでは自分らしく働けないと思いました。複数の施設にすべて落ちた後にたどり着いたのがアイムでした」
古田さんだけでなく、見学したエジソン高津のスタッフにも髪を染めている人がいる。皆、思い思いにオシャレを楽しんでいた。
始めて6年、今では海外ブランドからも注目されるように
こうした施設で、息子のGAKUさんは16歳で絵を描き始め、アーティストとしての才能を伸ばしてきた。
取材した日、GAKUさんはあらかじめ描いてあった黄色いトラに青い縦じま模様を入れていた。描く前には、絵具で洋服を汚さないようつなぎの作業服を着て、靴もビニールでカバーする。以前はこういった日常動作も古田さんが手伝っていたが、描くことにハマると自分で身の回りの支度をすべてこなせるようになった。
キャンバス前に陣取ると、迷うことなく筆をグイグイと動かす。青色が足りなくなると、古田さんに足してもらう。その表情は、実に楽しそうだ。
古田さんは、その様子をこう説明する。「言葉にはしないけど、GAKUの中では何をどう描くのかが決まっています。だから、筆に迷いがない。私のアドバイスに『ハイ』と返事をしても、まず、そうしませんから」
GAKUさんは絵を描いている途中、取材者のほうを向き、笑顔を見せることもあった。大きなサイズだが、30分ほどで一気にしま模様を完成させてしまった。
22歳になった今は、年間200枚以上の絵を描く。数十万円から、高いものでは数百万円単位の値がつく。動物の絵は、マスキングテープやメモ帳などのグッズでも販売している。米国のブランド「レスポートサック」や英国生まれの「ザボディショップ」とのタイアップでデザインを提供し、続々と商品化した。そしてこの3月からは、日本のシューズブランド「ダイアナ」とコラボした靴が発売される。どれも見ていると楽しくなる作風が支持されている。