楽しい場所だから、積極的に通いたくなる
9つのシャンデリアが天井からぶら下がり、壁際にはギターが立てかけられている。大きくカラフルなソファに座る男児の前で、別の男児が白いヘッドフォンを装着し、タブレットを操作している。
2月上旬に訪問した放課後デイ・エジソン高津(神奈川県川崎市)は、青、黄色、緑、オレンジ色などカラフルに彩られた内装が特徴だ。レーシングゲームを体験できる自動車を模したコックピットや、VR(仮想現実)の端末まである。その空間は、おおよそ福祉施設とは思えない。
利用者は知的障害や発達障害などを抱える子どもたちだ。突然声をあげたり、暴れたりすることはなく、思い思いに過ごしている。
中でも発達障害を抱える子どもは、新しい環境を嫌がる傾向があるとされる。だがここへ来ると、玄関から施設の奥までずんずん入っていき、気に入った設備で遊ぶ。楽しい場所だから、毎日、積極的に通いたくなる。そうしているうちに、引きこもりや不登校の改善にもつながってきたという。
佐藤典雅さんが運営しているのは、エジソン高津を含む放課後デイサービス4施設と就労支援、グループホームなど合計7施設。現在、すべての放課後デイで定員の10人が利用し、アイムは全施設で黒字を確保している。
「普通の人」に近づける療育は意味がない
今は福祉業界で活躍する佐藤さんは、元々はマーケッターだ。ヤフーで仕事をしていた時、当時3歳だった楽音さん(GAKU)が自閉症だと分かった。
佐藤さんは、GAKUさんの療育のため転職し、一家で米ロサンゼルスに移住した。日本よりも整った環境で治療が受けられると思ったからだが、そこで最初の壁にぶち当たる。
「療育の内容は、わかりやすくいうと『普通の人』に近づけるようにするプログラムでした。自閉症の子どもの多くは多動なので、まずは座らせる訓練をする。その時は子どもも空気を読んでプログラムをこなすけど、帰りに寄ったレストランでは座っていられないんです。日々の生活で適応できないプログラムに意味はないと感じました。
実際、GAKUも食事とiPadを見ているときは座っているので、楽しんだり、何かに熱中したりすれば自閉症の子どもだって静かにしているわけです。日本の療育も同じ内容ですが、自然成長以外で症状が改善された例を、僕はまだ見たことがありません」
現地で受けたセラピーは思ったような効果は出なかったが、「GAKUにとって、ロスは住みやすい環境だった」。そこから9年間の長期滞在を経て、GAKUさんが中学生となるタイミングで、日本に戻ることを決断した。佐藤さんは、再度、転職活動をしたが、今度は立て続けに面接で落ちることになる。