立憲民主党が世襲批判から容認へ転じたことは、党を率いる幹部たちが与党経験を経て、政治キャリアを蓄積するなかで、「政権打倒をめざす挑戦者」から「既得権益を擁護する守旧派」へ変節したことを象徴する事象ではなかろうか。「身を切る改革」を掲げる新興勢力の維新に野党第一党の座を脅かされているのも、新陳代謝の進まない立憲民主党の実情を有権者に見透かされているからだろう。

立憲民主党はなぜ、岸田首相の衆院広島1区を受け継ぐことが確実視されている翔太郎氏や、山口2区補選に出馬する岸信千世氏に対して痛烈な「世襲批判」を浴びせないのだろうか。これほど世論に響く自民党批判の材料はない。

自分たちがいずれ実行するかもしれない「世襲」へのブーメランを恐れて批判を手控えているとしたら、有権者への背信行為にほかならない。立憲民主党の政権批判が迫力を欠くのは当然だ。

世襲論争が「ポスト岸田」を左右する

自民党を長年支配してきた最大派閥・平成研究会(旧経世会)支配を壊した小泉政権時代(2001~06年)にポスト小泉レースを競った「麻垣康三」(麻生太郎、谷垣禎一、福田康夫、安倍晋三の4氏)はいずれも世襲議員だった。

約20年の時が流れ、政治家3世の岸田首相の後継には、同じく3世の河野氏のほか、茂木敏充幹事長や萩生田光一政調会長、首相再登板をめざす菅氏ら非世襲議員の名も上がっている。

岸信千世氏が衆院山口2区補選に出馬する一方、安倍元首相の死去に伴う山口4区補選への出馬を妻昭恵氏が固辞して安倍家の地盤継承が途切れたことも、相反する政治事象として興味深い。

岸田翔太郎氏や岸信千世氏への風当たりの強さは、日本政界の世襲全盛期の終焉しゅうえんを意味しているのか、それとも一過性の現象なのか。世襲論争の行方はポスト岸田レースの行方にも影響を与えることだろう。

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