なぜ庶民感覚の分からない政治家が増え続けるのか

父よりも祖父に近いタカ派と言われる河野太郎氏が自民党総裁選に出馬した2021年、84歳の洋平氏は父親として居ても立ってもおられず、参院のドンと言われた青木幹雄元官房長官の事務所を訪れ息子の支持拡大に協力を求めた。

政治信条よりも河野家3代の悲願である「首相の座」への執着をのぞかせたのである。政治家一族にとって「政治は家業」であることを印象づけたのだ。

世襲でも実力があれば問題はない、むしろ世襲のほうが選挙に追われることなく政策に集中できる、強引な資金集めの必要もなくクリーンだ……そのような世襲擁護論は政界に根強い。業界団体や支持者にとっても、地盤、看板、鞄を生まれながらに備え、選挙に強い世襲政治家の存在は利益になる。政権与党であり続ける自民党議員であればなおさらだ。こうした硬直的な関係性が、世襲政治家が増え続ける根本的な原因だろう。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです

もちろん世襲を全否定する必要はないかもしれない。しかし3世4世となると庶民感覚からかけ離れた所作が目立ってくる。これは民主政治のシステムを蝕む大問題だ。

岸田首相がパリ・ロンドンで公用車に乗って観光地巡りした息子を「首相秘書官としての公務」としてかばう一方、官邸記者団へのオフレコ取材で差別発言をした経産省出身の首相秘書官を即刻更迭した「ダブルスタンダード」に衝撃を受けた人は少なくないだろう。

露骨な「身内びいき」を目の当たりにして首相を支える官邸チームの士気は大きく低下したに違いない。世襲によるモラルハザードは岸田政権下でも着実に進んでいる。

岸田首相にマイノリティーの苦しみは分からない

岸田首相は「(同性婚を認めると)社会が変わってしまう」と発言して批判を浴びると、今度は衆院予算委員会で「私自身、ニューヨークでの小学校時代にマイノリティーとして過ごした経験がある」と発言し、少数者に理解のある首相を演出してみせた。

岸田首相は小学1~3年生時代、エリート通産官僚の父親(のちに衆院議員)の海外赴任に帯同してニューヨーク市のパブリックスクールに通学している。この際に日本人というマイノリティーとして差別を体験したことをアピールしたかったようだ。

しかしこの国会答弁を伝えるテレビ報道には、蝶ネクタイをして白人の子どもたちと一緒に集合写真に収まるニューヨーク時代の岸田少年が映し出されていた。この写真には「岸田文雄事務所提供」のクレジットがある。

首相のアピールを下支えする効果を期待して提供したのかもしれないが、海外赴任が極めて珍しい時代の政治名門一家の御曹司にしかみえない。マイノリティーの苦しみに共感できる政治家なのかという疑問さえ浮かんでしまう。はっきりいって逆効果だった。少年時代のニューヨーク暮らしが大衆にどう受け止められるかという感性が欠如しているとしか思えない。