「平均顔」に近いほうを人は信頼してしまう

実験3では、被験者223人は128枚の顔画像の中から信頼性の高いものを選び、1(非常に信頼できない)から7(非常に信頼できる)までの評価を行った。その結果、信頼性に関して、実在の人物の平均評価は4.48であったのに対し、ディープフェイク顔は4.82となり、後者のほうが信頼性が高いという結果となった。

人は平均的な顔のほうが、より魅力的で信頼できるという説がある。訓練したGANが作り出す顔画像が平均顔に近いために、ディープフェイク顔のほうがより信頼できると感じられたのかもしれない。

写真=iStock.com/filadendron
※写真はイメージです

以上の結果をまとめると、人はディープフェイク顔を識別することが苦手で、練習をしても大幅な識別の上達は見込めず、さらに、ディープフェイク顔をより信頼する、ということになる。

もちろん現実世界では、画像だけでなく、それが使用される文脈やその他の言語的・非言語的情報が手がかりになるので、この実験結果を過度に一般化することは禁物だ。しかし、人は自分のフェイクを見抜く能力を過信しがちなので、合成顔が悪意のある目的に使用された場合、効果的である可能性がある。このことは、ディープフェイクに備えるためにも念頭に置いておきたい。

意識的に見分けるのは難しい

同じく2022年、シドニー大学の研究グループが、人は意識的にはディープフェイクの真贋を見分けることができなくても、無意識的にはできるかもしれないことを示す、興味深い研究結果を発表した。

同研究グループは、被験者を2つのグループに分け、グループ1には、ディープフェイクの顔写真と本物の人間の顔写真を50枚用意して、本物か偽物か判定してもらった。グループ2の被験者たちには、同じデータセットの顔写真をただ見てもらい、その間の脳波を測定した。ただしグループ2には、顔写真にディープフェイクが混ざっていることは知らされていなかった。

その結果、グループ1の被験者たちの正解率は37%と低かった。でたらめに答えたとしても正解率は50%になるはずだが、それを大きく下回る結果となった。さらに、単にディープフェイク顔を見抜けなかっただけでなく、偽物の顔写真のほうを本物だと答える傾向があることがわかった。つまり、人は意識的にディープフェイク顔を見抜くことが難しく、偽物の顔にリアリティを感じてしまうということを示唆しさしている。ここまでは、先ほど紹介した実験と同様の結果だった。