脳はディープフェイクに気づいている?

しかし、グループ2の脳波の測定結果は意外なものだった。グループ2の被験者たちが顔写真を見ているときの脳波(EEG)を分析したところ、本物と偽物の顔写真では、異なった脳波が観測された。これはつまり、本物と偽物の顔写真では、脳内の情報処理に違いがあるということを示唆している。

笹原和俊『ディープフェイクの衝撃』(PHP新書)
笹原和俊『ディープフェイクの衝撃』(PHP新書)

さらに、特定された脳波をもとに見積もった正解率は54%となり、正解率がでたらめに答えるよりも高い結果となった。たった4%の差と思うかもしれないが、統計学を用いて検定した結果、有意な差だということが明らかになった。これはつまり、本物と偽物が混ざっていると知らされていないにもかかわらず、被験者の脳は本物と偽物の違いに反応していたということになる。

では、なぜ脳の無意識レベルの反応と意識レベルの回答が異なってしまったのだろうか。私たちの脳では、情報を処理する過程で様々な情報と統合され、高次の情報や記憶との照合が行われるため、本物とディープフェイクの顔画像の区別は、情報処理が進むにつれてそれが曖昧になり、答える段階ではその情報が失われてしまったのではないかと推察されている。

同研究グループは、今後、脳の持つ偽画像の検出の仕組みが解明できれば、ディープフェイクによるリスクを抑止できる可能性があると述べている。しかし、ディープフェイク技術は、本物の人間かどうかを検知する人間の無意識すらも、だましてしまうようなものに進化を遂げつつある。

注意して見れば偽物と見抜けるものも

フェイク画像を見破るAI技術で生成したコンテンツは、人が見抜けないほどのリアリティを手に入れた。とはいえ、全部が全部クオリティが高いわけではなく、注意して観察すれば、合成された偽物だと見抜けるものもある。

国際ニュース通信社ロイターの記事によると、ディープフェイクは一般的に人を模倣するのが得意だが、人工的に生成された多くの顔画像には、目、耳、口の周りに特徴的な不具合が残っていることがある。また、服装やアクセサリーや背景など、顔以外に合成された痕跡が残っていることがある。