賞狙いの勝負作を文芸誌に発表したが…

勝負作というのは、まず連作でいくつか短篇を執筆し、そのうち最も出来のいいものを、しかるべき時期に掲載するということを意味していた。

問題は何を書くかだが、二人の編集者は、「この際、直球の『ラス・マンチャス通信』路線の作品をお願いします」と正面から持ちかけてくれた。彼らは、僕の書き手としての本質は、日本ファンタジーノベル大賞を受賞したそのデビュー作にあると思っており、勝負をかけるなら、僕特有の資質が最も鮮明に現れるはずのその路線で臨むべきだという考えだったのだ。作品は、日本推理作家協会賞を受賞できるかどうかにかかわらず、最終的には短篇の連作もしくは一本の長篇小説という形で書籍化してくれるということだった。

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僕にしてみれば、まさに望むところといった心境だった。そこで僕は、前々から構想を温めていた、しかしなかなか実現への手筈が整わなかった作品を、それに充てることにした。『ラス・マンチャス通信』も顔負けの捻れたファンタジー性に支えられた、不穏な物語である。

僕としてはまさに本領発揮という感じで、書くに際して迷うことはほとんどなかった。ただし、受賞狙いのプランを提案されたタイミングがわりとギリギリだったこともあり、『野性時代』に掲載する候補となる短篇としては、二篇書くのがやっとだった。結果としては、物語の冒頭部分に当たる一作目が、『棺桶』というタイトルで『野性時代』に掲載された。

受賞ならず単行本化の話が消えた⁉

日本推理作家協会賞については、残念ながら受賞は逃してしまったし、候補作にも選ばれなかったのだが、少なくとも、その一歩手前のところまでは行き着いていたようだ。というのも、この短篇は、日本推理作家協会が毎年編集している推理小説年鑑『ザ・ベストミステリーズ』の2011年度版に、受賞作や候補作と並んで、「ベスト12」の一篇として収録されたからだ。そもそも『棺桶』が、いわゆる推理小説としての要件を満たしているとは言いがたい作品だったことを考えれば、まあ善戦したほうだったのではないかと思う。

とはいえ、受賞できなかったということは、それを冠として単行本を大々的に売り出すという当初の目論見も、この時点で消滅してしまったということを意味する。その事実には落胆したが、意気消沈している暇はなかった。僕は一刻も早く、頭の中に氾濫する物語世界のイメージを形にしたかったのだ。僕は怒濤の勢いで残りの部分を書き継ぎ、『棺桶』を第1章とするこの物語を、全六章構成の長篇小説『3・15卒業闘争』として完成させた。