2017年、作家・曽野綾子さんは夫の三浦朱門さんを在宅介護で看取った。彼女はその後、どのように日々を過ごしたのか。曽野さんのエッセイをまとめた『人生は、日々の当たり前の積み重ね』(中公新書ラクレ)より2018年のインタビューを紹介する――。
曽野綾子氏
撮影=産経新聞社写真報道局 酒巻俊介
曽野綾子氏

夫が生きているうちにやったほうがいいこと

夫の死後、「生活はいかがですか?」とよく聞かれるのですが、私自身はあまり変わらず、ごく普通に過ごしています。そうあろうと心がけてもいました。そのほうが、夫も安心するだろうと思うからです。

昼間は、これまでと変わらず、長年勤めている三人の秘書が交代で来てくれています。台所のことを担当しているブラジル人のお手伝いのイウカさんも、二十年近くうちにいてくれて、みんな家族みたいなものです。最近、イウカさんの唯一の身内だった妹さんが亡くなりました。私が死んだあとは妹さんと暮らせるだろうと思って安心していたのに、残念です。いまは私と二人で、お菓子でもなんでも半分こしています。

このような生活は、夫が生きているうちからずっと変わらずに続けてきたこと。私同様に夫に先立たれた妻のなかには、夫が残した財産で華やかに暮らしたいという人もいれば、先行きが不安だから生活を引き締めてお金を貯めたいという人もいるでしょう。けれど、極端な変化を望むのは、それまで無理をしてきた証しではないでしょうか。

夫が生きているうちに、自分の納得できる生活のテンポを作り、なおかつ我を忘れて没頭できる、好きだと思える何かを持っていることも大切です。ボランティア活動でも、墨絵や刺繍などの趣味でも、なんでもいいのです。

私には書くことがあるので便利でした。結婚した時にはすでに書いていましたから、六十四年、書き続けています。それさえあれば、私はできるだけ生活は同じほうがいい、変わらないのがいいと思っています。