突然の同居

3月。鈴木さんは両親を呼び寄せるために、実家を売却して住み替える計画で、自宅近くの中古マンションを購入。ただ、購入したマンションは、10月にならないと引き渡してもらえなかったため、9月までは遠距離介護を続ける予定だった。

ところが、家事ができなくなった母親は、父親からたびたび怒られることで、抑うつ傾向に。それまでは「大丈夫」と言っていたが、生活に自信をなくし、頻繁に鈴木さんに助けを求めてくるように。

鈴木さんは、母親に手の震えや歩行障害が出ていたので「パーキンソン病」を疑い、神経内科につれていく。MRIなどの検査を行い、長谷川式認知症スケールを受けると、30点満点中27点。パーキンソン病と診断され、薬を処方される。

4月。突然固定電話を解約してしまい、電話がつながらなくなる。働くのが大好きだった母親だが、無断欠勤が続く。処方された薬の効果も出ず、薬の管理もできない。

そんな5月のGW中のこと。叔母(母の妹)から鈴木さんの携帯に突然電話があり、「広香はどこまでお母さんの状態を知ってるの⁉」と言われた。

母親と叔母は長年疎遠だった。その理由は、20代の頃にさかのぼる。鈴木さんの母親は、貧しい両親の助けになればと、自分が稼いだお金を家に入れ、自分に結婚の話が来ても、断り続けていた。そんな母親が断った結婚話を叔母が代わりに受け、相手に気に入られ結婚。2人の子どもをもうけたが、結局3〜4年で離婚。子どもを捨てて実家に帰ってきた。

叔母は事務員として働き出すと、その会社の社長の愛人に。母方の祖父母は、出戻った末娘を不憫に思って甘やかし、これまでさんざん尽くしてきた母親を冷遇。このことがきっかけで、母親は叔母と距離をおいていたのだ。

「母と叔母の仲は悪かったはずですが、母は何らかの不安を抱え、独身で身軽に動ける叔母にSOSを出していたのだと思います。週1〜2回、叔母が母を車で迎えに行き、いろいろな場所に出かけていました。しかし、帰りが遅くなることも多々あり、父に遅くなることや行き先を連絡しなかったことから、帰宅時に父からひどく怒鳴られ、その様子を叔母が見て、『あんなに怒鳴られて、ふーちゃん(母)が可哀想。広香は何をしてるの⁉』と電話で言われました」

叔母から連絡を受けたとき、夫も家にいた。「これは10月まで待てない……」と思った2人は、マンションが引き渡されるまでの間、一時的に自宅で同居をすることを決意。すぐに中部地方の実家に向かい、その足で両親と犬を連れて帰ってきた。

「母は、私たちと一緒に暮らせることに安心して喜んでいましたが、父は、私が新婚ということもあり、『連れて行くならお母さんだけにしろ! どうせ10月にはそっちに行くんだから』と同居を嫌がっていました。ただ、何もできない父を1人置いて行くこともできず、夫に説得してもらい、無理矢理連れて帰ってきました」

そのとき鈴木さんは、妊娠3〜4カ月だった。

写真=iStock.com/Masao
※写真はイメージです
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