時代の流れを読む感覚には優れているが…

少子高齢化時代の「働き手」と期待されるロボットでも同様の問題が起きた。

傘下の研究所が官民の人材を集めて8年間にわたって、原子力発電所の高放射線下の作業など、人間が入り込めない場所で使う「極限作業ロボット」の研究開発を進めた。

しかし、実用化されないまま終了した。

2011年の福島第1原発事故の際に、このロボットの使用が検討されたが、到底使える代物ではなく、欧米などからロボットを急遽取り寄せた。

半導体政策、成長戦略「インフラ輸出」の柱に据えた原子力発電所輸出など、企業を集めては多額の国費を出したり、音頭取りをしたりしてきたが、うまくいかなかった。

霞が関の他の役所からは「経産省はいろいろな分野に手を出すが、失敗も多い」との批判が繰り返し出ている。

経産省は時代の流れを読む感覚に優れ機動力も高い。政策のネーミングのセンスでも他省庁を圧する。

日の丸旅客機では、中高年世代のノスタルジアもうまく活用したように見える。1964年東京五輪の際に、YS11は聖火を載せて飛行した。

2020年五輪の東京招致が決まってからは、政治家なども「2020年東京五輪では、MRJで聖火を運ぼう」と機運を盛り上げた。

新会社「ラピダス」でも同じ失敗をしかねない

だが、現場の実態や判断を生かしたり、スピーディーに変化する経済情勢をどこまでキャッチしたりできているのだろうか。きちんと育て上げ、産業として根付かせる工夫や努力も、もっと必要なのではないか。

YS11の開発は、通産省(現・経産省)が民間企業に働きかけて実現させたという点では成功したのだろうが、ビジネスや組織の問題点なども露呈し、製造中止になった。

それから50年、時代も経済情勢も変わっている。昨年には、次世代半導体を量産するためにトヨタ自動車やNTTなど日本の主力8社が計73億円を出資し「ラピダス」という会社を立ち上げた。経産省も700億円の国費投入を決め、支援を続ける方針だ。

海外企業に依存している半導体を自国で賄うという、国の威信をかけた巨大プロジェクトだが、ラピダスもこのままでは同じ失敗をたどる恐れがある。日の丸ジェット旅客機の開始から撤退までの検証をきちんと行い、より良い政策やプロジェクト作りへとつなげることが必要だ。

国費500億円、ANAやJALなど航空会社の損失、傷ついたモノづくり大国の信用――。失ったものは大きい。

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