最初に国家公務員の日本型職務給のモデルを作れ

年功賃金是正のために、政府が「日本企業に合った職務給モデル」のひな型提示よりも最優先で行うべきことは、以下の3つである。

第1に、安倍政権で腰砕けとなった同一職種であれば、勤続年数にかかわらず同一賃金という原則の徹底化である。また、それに基づき、労働者から訴訟を起こされた際の企業の立証責任の明確化である。そうなれば、個々の企業は、労働者が納得する職務給体系を示すとともに、それに見合った働き方をしているかの人事評価に時間をかけることになろう。

第2に、労働者を企業内に閉じ込めることを助長する、年功賃金に基づいた退職金制度の見直しである。例えば、働き盛りの40歳代に転職すると、定年まで同一企業に勤務した場合と比べて、生涯に受け取れる退職金は大きく減少する。退職金制度の是非は、個々の企業の判断に委ねるべきだが、少なくとも退職金を優遇する現行の所得税制を廃止し、企業間でポータブル型の企業年金との税制上の中立性を維持することは、政府の裁量で十分に可能である。

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第3に、政府が賃金制度を決められる国家公務員について、あるべき日本型職務給のモデルを率先して適用するといい。もともと国家公務員法(第62条)では、「俸給は、その職務と責任に応じて支給するもの(職務給原則)」とされている。そんなことを言うと「公務員の賃金体系は容易には変更できない」といった反発がありそうだが、それは民間企業についても同様であろう。政府が自分では困難なことを民間企業に強制するのではなく、日本型職務給の普及は、個々の企業に委ねるべきだ。

構造的な賃上げの基本は、今回取りざたされている職務給の是非よりも、企業間競争を通じた新規投資による生産性向上である。民間企業の参入が抑制されている農業や医療・介護施設などの分野や、雇用の流動化を妨げている労働市場の制度・規制改革は放置されたままであり、競争は十分ではない。それにもかかわらず、企業の賃金体系について「日本型職務給」の導入を政府が直接、指導しようとすることは本末転倒といえる。

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