ピケティも大胆な再分配を掲げているが…

BIと同様の「法学幻想」は、『21世紀の資本』の著者でフランスの経済学者トマ・ピケティの税制改革案にも当てはまります。実はピケティも近年「社会主義」を掲げるようになっていますが、彼のやり方は、所得税や法人税、相続税を大きく上げていくことで大胆な再分配を実現することです。

写真=AFP/時事通信フォト
『21世紀の資本』の著者でフランスの経済学者トマ・ピケティ氏

例えば、所得税や相続税の最大税率を9割にして、それを原資に、あらゆる成人へ1千数百万円ずつ与えることを提唱しています。もちろん、そのような再分配が行われれば、庶民の暮らしは安定し、豊かになるでしょう。けれども、そのような大型増税を資本の側が嫌い、必死の抵抗をするのは目に見えています。

ピケティの説明では、BIの場合と同様、資本のストライキに立ち向かって、このような大胆な改革を行う力がどこから湧いてくるのかが不明瞭のままです。結局、ピケティのような良心的なエリートが社会全体のためを思って制度をトップダウンのやり方で設計していくという「法学幻想」は、うまくいきません。

大規模なばら撒き政策は国民のためになるのか

資本のストライキに打ち勝つためのアソシエーションの力を育てる必要があるけれど、ピケティが提案する税制改革を支える運動がそもそもどのようにして出てくるかは、はっきりしないのです。そして、近年「反緊縮派」の理論として注目された現代貨幣理論(Modern Monetary Theory:MMT)にも同じ問題があります。

MMTは、自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行にならないので、財政赤字でも国は過度なインフレが起きない範囲で支出を行うべきという主張をして、注目を集めました。

MMTの掲げる大胆な財政出動は、政府が最低賃金で雇用を用意し、望む全員に仕事を提供する「雇用保障プログラム」とセットで生活を保障します。その際には、環境にやさしい持続可能な社会への転換のために必要な仕事を積極的に創出しながら、経済成長を目指していくとされます。では、これならうまくいくかといえば、積極財政であっても、公的投資に比重が移って、何に投資をすべきかを政府に決められてしまうことを、資本はやはり嫌うでしょう。

投資をするかしないかの自由な判断権を、自らの手に完全に掌握しているというのが資本の権力の源泉であり、その力を守るために必死に抵抗するのです。けれども、MMTにとって、公的投資による資本の管理は重要です。ただ貨幣をばら撒くような形になってしまえば、社会保障や環境に優しい仕事だけでなく、軍事や無駄な公共事業に使われてしまうかもしれないからです。あるいは、ばら撒く過程で利権が生まれて、大企業ばかりが儲かるようになってしまうかもしれません。