「資本のストライキ」に打ち勝つことができるのか

資本は、国家を超えて好きなところで好きなものに投資できる、という自由を持っていて、この自由が、移動できない労働者や国家に対する、資本の権力や優位性の源になっています。この自由を盾に、「資本のストライキ」を発動しようとするのです。だから、BIを導入するには国家がこの資本のストライキに打ち勝たなければなりません。そのためには相当な力の社会運動が、後ろ盾として必要となるでしょう。

けれども、もし社会運動の側にそれほどの強大な力があるなら、国家が貨幣を配る以外の社会変革の道を追求することができるはずです。

例えば、医療や高等教育、保育・介護、公共交通機関などをすべて無償化して、脱商品化するというように。ところが、BIという提案がそもそも出てきた背景には、労働運動が弱体化し、不安定雇用や低賃金労働が増大していることが挙げられます。労働運動が頼りないので、代わりに国家が貨幣の力を使って、人々の生活を保障しようとするのがBIなのです。

BIを導入しても根本的な問題は解決できない

たしかに、毎月手に入るお金が増えれば労働者の生活にも余裕が出て、労働者階級の力が強まるかもしれません。けれども、こうしたやり方は生産のあり方には手をつけないため、資本が持つ力を弱めることはできません。そのため、BIを求める勢力が、資本のストライキにどれほどの力をもって立ち向かえるか、心許ないわけです。

カール・マルクス
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先にも述べたように、BIの考え方は、貨幣が力を持っている現在の状況を、かなり素朴に前提としています。その場合、私たちはBIを導入しても、商品や貨幣の力に振り回され続けるのではないでしょうか。物象化の力は全然弱まらないのですから。

それに対して、物象化の力を抑え込もうとしたマルクスは、貨幣や商品が力を持たないような社会への変革を目指していました。もちろん、このゴールは貨幣の力をどれだけ使っても達成することができません。貨幣の力から自由になるためには、貨幣なしで暮らせる社会の領域を、アソシエーションの力によって増やすしかないのです。