資本主義社会はこのままでいいのか。東京大学大学院の斎藤幸平准教授は「停滞した社会を変えるために、ベーシックインカムやMMTといった手法が話題になるが、『トップダウン型』の発想には問題がある。マルクスはそうした発想を『法学幻想』として批判していた」という――。(第2回)

※本稿は、斎藤幸平『ゼロからの『資本論』』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

都市に飛んで円
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ベーシックインカムは特効薬なのか

経済の問題を、労働者たちが自分たち自身で変えていくのではなく、国家や政治権力で解決しようとする「国家資本主義」や、革命や選挙などによって政権を奪取し法律を変えればいいという「法学幻想」に対するマルクスの批判は、今日その重要さを増しています。このような幻想は過去に限定される話ではないからです。

労働運動が停滞し、アソシエーション(自発的な結社)が弱まるなかで、国家の強い力を利用した資本主義の改革案が、再び打ち出されるようになっているのです。例えば、2000年代から人気の根強いベーシックインカム(BI)は、「法学幻想」の象徴です。

貨幣をみんなに配るという法律を作ってしまえばいいとするBIの発想は、一見すると非常に大胆です。十分なお金が自動的にもらえるなら、嫌な仕事をわざわざしなくてよくなる。好きな仕事をしながら、自由な時間も増えて、豊かな人生を送れる――というわけです。なるほど、BIは起死回生の特効薬に見えるかもしれません。とはいえ、月2、3万円を配る代わりに、年金や社会保障費を削減されてしまっては元も子もありません。

一方、BIとして毎月10万円くらいを全国民に配ろうとすれば、財源として大企業や富裕層に相当程度の負担を強いることになります。当然、資本はありとあらゆる手段を使って、そのような増税に抵抗するでしょう。グローバル企業は、日本政府がBIのために重税を課すなら、会社をたたんで税負担の低い海外の国へ逃避するぞ、と脅してくる可能性が高いわけです。

そうなれば、税収は減り、株価も下がってしまう。これが資本による脅し、「資本のストライキ」です。