GDPの5~6%を少子化対策に

ハンガリーでは1981年以降、人口減少に歯止めがかからず、2011年までの30年で人口の1割にあたる100万人減った。出生率も1.23で、当時のEUで最低となった。

これに対し、現在のオルバーン政権は、所得税免除や無利子ローンなど、大胆な少子化対策を次々と打ち出し、今ではGDPの5%から6%を家族政策のために使っているという。

その結果、2021年には出生率が1.59まで上がった。2022年の最新の統計では1.52に下がったが、それでも10年前に比べると高い水準だ。また、20歳から39歳の女性人口が過去10年で20%(28万3000人)減少したにもかかわらず、2021年の出生数は2010年より約3%増えているという。

政策の背景や具体的な中身について聞こうと、パラノビチ・ノルバート駐日ハンガリー大使に取材した。

「ハンガリーでは、子ども支援は未来への投資と考えています。出生率が低く、これが解決しないと、ハンガリー国家も守ることができない。家族を守ることは、国家を守ることだと理解することが大事だと思います」とパラノビチ大使は語る。

ツイッターを買収したイーロン・マスク氏が昨年ツイッター上に、「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう」と投稿し話題を集めたが、やはり少子化対策は国の存続を左右する重要な政策なのだ。

写真=大門小百合
駐日ハンガリー大使のパラノビチ・ノルバートさん

3人産めば返済不用のローン、450万円の住宅資金補助

ハンガリー政府が特に重要視しているのは、「子どもを産んだことによって家計の安定・安全が悪影響を受けないようにする」(パラノビチ大使)ことだ。

手厚い支援の一つとしてまず挙げられるのは、使途の縛りがなく、何に使ってもよい無利子ローンだ。妻の年齢が18歳から40歳までの夫婦は、国から1000万Ft(フォリント、日本円で約350万円)を無利子で借りられる。返済期間は最大20年で、最初の5年間に少なくとも1人の子どもが生まれた場合、返済が3年間猶予される。第2子を出産すると、さらに3年間の返済が猶予されるうえ、元本の3割が帳消しにされる。第3子を出産するとローン残高のすべてが返済免除となる。理論上は、3年ごとに子どもを3人産むと借金がゼロになる。

ただし、最低3年間は正規就労(医療社会保険料を納付)しなくてはならない。また、5年以内に出産しなければ、利子付きで返済する必要がある。

マイホームを買うための補助金もあり、こちらも子どもが増えるたびに得をするシステムだ。1人の子どもを持つ家庭が面積40平方メートルの共同住宅か面積70平方メートル以上の一戸建てを購入する場合、1930ユーロ(約27万円)の補助金が現金支給される。子どもの数が増えると補助金額も上がり、3人以上の子どもがいる家庭が60平方メートル以上の新築の共同住宅か90平方メートル以上の一戸建てを購入する場合は3万2260ユーロ(約450万円)が支給されるという。