児童手当や保育無償化が「異次元の対策」なのか

研究者だけでなく、自民党内部からも、児童手当や保育の無償化では少子化は改善されないという指摘がある。

エビデンスに基づけば、その指摘は正しい。

所得制限のない児童手当や教育の無償化は、これまでの政治が崩した子育て世代の負担と受益のバランスを正常化させるにすぎない。

保育の無償化は、家計負担の軽減という意味では重要であるが、少子化対策に対しては、いまだに充分ではない都市部における0~2歳の保育機会を十分に拡大すること、保育の質を向上することが至上命題となる。

山口慎太郎東京大学教授をはじめ、経済学や社会学分野の研究者が異口同音に指摘しているのは、十分な保育機会の確保(待機児童解消だけでなく、第1子と第2子以降が別々の保育所に通わなくて済むこと、育休退園を強制されない、就労していなくても保育にアクセスできる等)である。

それとともに、保育士の劣悪な待遇を改善し、保育士配置基準も改善し、保護者が就労していても、そうでなくとも、子どもたちが安全安心な環境で育つことが重要である。

子どもが安心できる保育を受けられることが、とくに女性の出産を促進するからである。

総理と都知事は若者の非婚化・貧困化にどう向き合うのか

また、岸田総理、小池都知事ともに少子化対策として見逃しているのが若者の非婚化、貧困化である。

日本の出生動向を分析した上田・坂元・野村(2022)によれば、深刻な少子化の原因は「子供を持たない人の割合の増加、及び子供を複数持つ人の割合が減っていることの双方」である。その要因は、若者の雇用の不安定化による貧困化、非婚化である。

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「近年の特に若年層での雇用の不安定化が(そして結果として生じる低収入が)異性との交際、婚姻、そして子供の有無に影響を及ぼしていると考えられる」という分析結果が示されている。

岸田政権の「異次元の少子化対策」は、児童手当の所得制限に国会論戦のポイントが矮小わいしょう化されているが、そんなことでは、少子化対策は不発に終わるだろう。

若者の非婚化・貧困化こそ、少子化の最大要因であり、その視点は岸田総理肝いりの全世代型社会保障会議にも希薄である。

『子育て罰』というタイトルの本を世に送り出した研究者として指摘するならば、国内外のエビデンスに基づき、若者や子育てするママやパパに必要な投資を切れ目なく充分に行う、その財源と具体的な工程表が示されてこそ、はじめて「異次元の少子化対策」が現実になると言える。

そして、その先送りはもはや許されない状況にまで、日本の超少子化は進行している。

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