超一流は、自分なりの乗り越え方を知っている
――それを乗り越える力が「傾聴力」というわけですね。
【村井】そうです。岡崎選手はものすごく傾聴力があるので、陸上のトレーナーを雇って、どの角度に体を倒してどういう蹴り方をしたらスピードが出るのかずっと研究し続けて、今の走り方にたどり着きます。その走り方は世界最高峰のイングランド・プレミアリーグでも十分に通用し、移籍したレスター・シティで優勝メンバーの一員になりました。
岡崎選手の傾聴力を私は自分なりの言葉で「おいしくご飯を食べる能力」と考えていました。ブンデスリーガやプレミアリーグでの練習や試合が終わったあと、仲間の選手を誘うのだそうです。独りで食べるよりみんなで食べたほうがおいしいのはもちろんですが、岡崎選手はそこで仲間に「日本とやり方が全然、違うんだけど、俺はどうしたらいい」と聞くのだそうです。彼の優れた能力の一つです。
――乗り越え方にもいろいろあるのですね。
長く日本代表のキャプテンを務めた長谷部誠選手は浦和レッズのサテライトの試合に両親を呼んだ時、緊張のせいで胃薬を飲んで試合に出たと本に書いています。自分の心の弦はこれ以上、太くはならない。だけど細い弦をピアノのように調律して一番良いテンションに張ることはできる。弦を太くすることを諦めた長谷部選手は、朝起きてから夜寝るまでに56のルーティーンを決めて心を良い張り具合に整えているのです。
ミスをしないことより、どう立て直すかで決まる
【村井】プロで10年以上活躍するような選手なら誰しも、絶対にどこかで一度や二度は挫折しています。けがをしたり、スランプになったり、代表から外れたり、出場機会が減ったり。大切なのはそれを乗り越える力。リバウンドメンタリティーです。そのリバウンドのために必要な要素が傾聴と主張と言うわけです。
成功する選手とはミスをしなかった選手ではなく、ミスで凹んだことを立て直しながらリバウンドしていった選手である。それが調査からわかったことでした。
ミスをして落ち込まない人はいません。問題はそこからどう立て直すか。練習試合でのミスとW杯最終予選でのミスでは落ち込み度合いも違います。でもものすごい落ち込みが来たら「自分もそれなりのステージに来てるんだ」と思えばいいのです。そして倒れるくらいまで体を傾けて周りの意見を聞き、「自分はこう思うんだ」と同僚や上司にいろいろ言ってみる。人はそうやって成長していくものだと思います。