自宅に汚物が投げ入れられる嫌がらせも受けた

「なんちゅう市長や」「あいつのせいで金儲けできなくなった」。

もっと強いマイナス感情を持つ方だって、当然今も一定数います。自宅に汚物が投げ込まれたり、家族が怖い目に遭ったりすることもありました。トップの権限は、地域の公共事業にも直結します。きれいごとでは済みません。それが現実です。

なので「そこまで腹はくくれない」と、尻込みする政治家がほとんどです。

そんな中で、なぜ私は予算配分を変えたのか。変えることができたのか。子どものころからの「冷たい社会を変える決意」だけではありません。

選挙のあり方。それが当選後の政治を大きく左右します。

私はどの政党にも依拠せず、どの団体からも推薦を受けず、市民一人ひとりを支持母体として選ばれ続けています。だからしがらみなく、業界の声になびくことなく、臆することなく動ける。市民への責任を果たすことができるのです。

お役所文化にも追従することはありません。見るべきは市民です。だから既存の概念を変える決断でも、市民のために迷いなくできるのです。

「動かせない要件」があってもやりくりすればいい

こうして明石市では、予算編成のしくみ自体を変えていきました。

従来どおりの各部門が要求を積み上げる方式では、市長は最後にハンコを押すだけの仕事しかできません。そんなやり方で漫然と続けていては、まちの状況が悪化していくだけです。

泉房穂『社会の変え方』(ライツ社)

「5つの無料化」のうち保育料も、予算確保のため、かなり早い時期から財政担当にも方針を伝えていました。必要額を試算すると、第2子から無料化だと約10億円。第1子も含めれば約20億円必要。当然やりくりする準備が必要です。

私は財政の担当者に「保育料に10億使う」と告げ、続けて言いました。

「税収が10億減ったと思ってくれ」。

予算は毎年変動するのが基本、とりわけ波があるのが税収です。さらに災害が起これば急な支出もかさみます。そうなれば、どこかを削減してでもなんとか必要な費用を捻出する。これまでもやってきた「あたりまえのやりくり」です。

最初に「動かせない要件」が決まっていれば、それに沿ってやりくりするだけ。普通にできるはずのことです。

1年余りの猶予を経て、開始前年の予算編成で「まず翌年、第2子以降を無料化する」と正式に決めました。まず優先枠を確保する。それ以外で通常の予算編成をする。前年ベースで予算を積み上げるのではなく、やるべき施策を決め、先に予算を確保。

市長が方針決定し、予算を決める。

この方式で順次、子ども施策を拡大していきました。

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