「10軒のために600億円」という公共事業にメス

当時、明石市の規模からするとかなり大きな下水道ネットワーク計画がありました。市の下水道普及率はすでに99.8%に達していましたが、100年に一度のゲリラ豪雨による床上浸水に備え、改めて市内全域の下水道管を太い管に交換する案です。20年で600億円を費やします。

下水道管の設置工事
写真=iStock.com/kckate16
※写真はイメージです

担当者と協議して被害見込みを尋ねると、市内で10軒。10軒だからといって対策を怠ることはあってはなりません。でも他の方法で、もっと効率良く対策できるのでは。そう思わずにはいられませんでした。10軒のために20年で600億という発想とコストも問題です。

役所は縦割り組織のため、狭い所管枠内で限定した発想になりがちですが、目的が浸水被害対策なら別の方法もあります。エリアを限定することもできるし、ハード整備だけでなくソフト面での対策を組み合わせて市内全域の体制を強化することもできる。組織全体でみれば、より有効でコストのかからない総合対策を選択することができるのです。

結局、整備計画を見直し、ハード整備中心の対策からソフト面も組み合わせた総合対策へと変更しました。結果、計画は総額150億円規模になり、450億円を削減することができたのです。

市民にも、市の財政面にも大変喜ばしいことです。

災害対策もできた。使う金も減らせた。

税金は市民から預かっている「市民のお金」

ところが、600億円もらえるはずだった仕事が突然150億円に減ったので、関係業界からとてつもない反発の声が上がりました。職員にまで「ここまで削ることはない」と指摘されました。

「市長、これは『タダ』なんですから」と。

「どういうこと?」と思い、調べました。

どうやら道路や水道などインフラ整備にかかるお金は、あとで国や県からお金が降りてくるので「市の負担は実質ない」との考えでした。

びっくりです。私たちは、国や県にも税金を払っています。どう考えてもタダなわけがありません。それなのに、平気でそんな意識で、私たちの税金を使っていたのです。

日本はいまだに、公共事業に多くのお金をつぎ込んでいます。

OECD諸国で比較すると、2017年、日本はGDPの7.3%。同じ島国のイギリスや日本より少し国土が広いフランスよりも多く、さらに広大なアメリカより6割以上も多いのです。

一方で同年の「子ども」などへの家族支出は、スウェーデン3.4%、イギリス3.2%、フランス2.88%に比べ、日本はわずか1.56%です。