ありのままを晒せる相手

彼女との付き合いは、あっという間に20年を超えた。新卒で入社した会社の一年後輩。私よりずっと天真爛漫だけど、実は結構気が強いし、合わないんじゃないかとはじめは思っていた。

私たちの仕事は常に忙しく、おおむね楽しかった。と同時に、嫌なこともたくさんあった。怒りや悲しみをどこにぶつければよいのかわからない、理不尽なことがたくさん。手柄を横取りされたことや、無理難題を吹っ掛けられたこと、望まぬ敗戦処理をさせられたことは、一度や二度ではない。それでも若い私たちは適度に鈍感で、いつもなにかに腹を立て、いつも手を叩いて笑ってもいた。

苦難を乗り越えることができた人とは、仲間意識が芽生えるものだ。皮肉にも、キツい仕事のおかげで彼女との仲は深まり、それぞれが退社したあとも関係は続いた。

出会ってから20数年後の今夜、私は彼女に全身をくまなく揉みほぐされている。まどろんだ自分のいびきが、うっすら残る意識のなかで聴こえてくるのが恥ずかしい。されど、気持ちのよさが優に上回る。こんなありさまを晒しても、彼女の前なら安心だ。格好をつける必要がまるでないから。100%とは言えないが、97%くらいは心を許しているから。

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苦難の際は励まし合って乗り越える

この20数年で、彼女も私も何度か職を変えた。彼女が腕のいい人気セラピストになるなんて思ってもみなかったが、彼女だって同じこと。私が国籍不明の名前で文章を書いたり、ラジオでしゃべったりするようになるとは想像していなかっただろう。

人生って、本当になにが起こるかわからない。プライベートでは、私は何度かの別れと出会いを繰り返した挙げ句に母と実家を喪い、彼女は結婚して渡米し、帰国して離婚した。お互い、苦難の際には万障を繰り合わせて駆けつけた。励まし合って苦難を乗り越えるのが、私たちの最初からのやり方なのだ。

全身の緊張を解きほぐしてもらったあと、二人で食事に出かけることにした。鍋をつつきながら、互いの近況報告をする。遠方のリゾート地にも彼女を待つ顧客がいるので、今年に入ってからは行ったり来たりでことさら忙しいようだ。充実感が漲っており、本当によかったと私も嬉しくなった。