日米同盟の枠内で日本の独立性を確保しようと努めた

2氏の話は、追悼の意という趣旨を差し引いても、安倍氏を政治家として高く評価している。それは次の2点に集約される。

一つは、「日米同盟の枠内で日本の独立性を確保しようと試みた政治家だった」ことだ。

佐藤優『よみがえる戦略的思考 ウクライナ戦争で見る「動的体系」』(朝日新書)

2016年の日ロ首脳会談後の共同記者会見でプーチン大統領は「日本と米国との関係は特別です。日本と米国との間には日米安全保障条約が存在しており、日本は決められた責務を負っています。この日米関係はどうなるのか、私たちにはわかりません」と述べた。

つまり、平和条約の締結後、日本領となった歯舞群島、色丹島に、安保条約に基づいて米軍が展開する可能性を示唆した。公の場で安倍氏に対してこの懸念にどう応じるのか、大きな問いを突きつけたことになる。

ロシアにとって、ウクライナ戦争の一因であるNATO東方拡大と構造的には同じ安全保障上の危険が生じることになる。安倍氏による北方領土交渉は未完に終わったが、その問いに対する回答を真撃に探っていたのではないだろうか。

2020年、アメリカからの購入が決まっていた迎撃ミサイル防衛システム「イージス・アショア」配備が中止された。当時、河野太郎防衛大臣が決定したかのように報じられたが、安倍氏の了承があったことは間違いない。

中止理由として、迎撃ミサイル発射時に周辺民家の安全が担保できないこと、イージスアショアの発射コストが膨大過ぎることが挙げられた。

その代替の一つとして、日本は国内で戦闘機から発射するスタンド・オフ・ミサイルの長射程化を進め、三菱重工が開発している。これも日米同盟の枠内で模索された安倍流の国家主義だと言える。

ロシアに対するシグナルにもなったと思う。

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強いロシアと関係を結び日本の地位の確立を試みた

安倍氏をロシア政治エリートが評価するもう一つは、「安倍外交には、アジア太平洋地域においてロシアに一定の影響力を発揮させ、強いロシアと結ぶことで、この地域での日本の地位を担保しようとする戦略性があった」点だ。

アメリカが進めてきたロシアの台頭を抑える政策に日本も加担し、ロシアを中国に接近させてしまうほうが、日本にとって不安定要因が増すことになる。強い国同士が安定的な関係を築いたほうが、地域的な問題が解決しやすくなると考えていたのだ。