「社内イントラネット上の画面が突然、消えました…」
こうしたデジタル音痴の中高年の行き場所がないのは同社だけではない。サービス業の人事部次長を55歳で役職定年になった男性は同じ部署にとどまるのが嫌で広報部に異動した。最初は若い社員と一緒に支店を取材し、社内報に掲載する仕事が楽しかったそうだが、ある事件をきっかけに仕事を干されてしまったという。男性はこう語る。
「取材した記事をワードに打ち込んで、社内のイントラネット上の掲示板に掲載する際は若い社員にやってもらっていたんです。でも自分もやり方を覚えなきゃと思って自分で操作しました。ところが途中でわからなくなり、いろいろ操作するうちに画面が突然、消えてしまい、広報の掲示板が機能しなくなったのです。それ以来、危険人物と思われているようで、掲示板の操作はもちろん、一緒に取材すら行けなくなりました。今は出社してもたいした仕事はなく暇ですよ」
思わず苦笑してしまったが、本人にとっては深刻な悩みだ。実は後日、同社の広報部長に彼の近況を尋ねたことがある。広報部長は「○○さんね、真面目な人なんですが、webデザインを学んで、パソコン上のデザインの仕事をやってもらうわけにはいきませんしね」と、語っていた。
こうした事例は決して少なくない。ITスキルの未熟さに限らず、今まで培ったスキルが陳腐化し、干されている状態にある人もいる。
特に定年後の再雇用で働いている人たちに多い。中堅商社の人事課長は「元管理職でも再雇用になると、給料が60歳時点の半分程度に下がります。とくに専門性があるわけでもなく、若い社員に教えてくださいと言うわけにもいかず、さりとて雑用をやらせるわけにはいかない。使いづらくて困るという話はよく聞きます」と語る。
IT企業でも同じような現象が起きている。システム開発会社の人事課長はこう語る。
「60歳を過ぎた再雇用の人に対し、管理職は『仕事の半分は後進の指導をしてください』とよく言います。でも教えるといってもプログラム言語はどんどん進化しており、若い社員に教えることはそんなにない。例えば、新規事業でAI機能を活用したセキュリティービジネスに乗り出すことになりましたが、プロジェクトメンバーは若手中心で構成され、中高年社員は外され、やるべき仕事がない状態の人が増えています。一方で若手の社員からは『あの人たちはいいよな。俺たちがこんなに忙しくしているのに、何食わぬ顔で定時に帰るし』という不満も出るなど、職場の人間関係も悪化しています」
前出の建設関連会社の人事部長も「若い管理職から『あの人たちはほとんど仕事をしていませんが、どうしたらいいでしょうか』という相談もあります。こちらとしては仕事を切り分けて雑用でも何でもいいので仕事を与える工夫をしてくださいと言うしかありません」と語る。