「高齢者ドライバーの重大事故が多発」はただの思い込み

この流れには、明らかに警察機構による指導(圧力)があると思いますが、ともかく、「高齢者ドライバーによる事故」ばかりを見せられた世間は、いつの間にか「認知機能の落ちている高齢者が運転操作を誤り、重大事故を多発させている」と思い込んでいます。この思い込みが〈過度の一般化〉による弊害です。なぜなら、その「思い込み」は事実ではないからです。

警察庁交通局による「交通事故の発生状況」(2019年)を見ると、免許保有者(原付以上運転者)10万人あたりの交通事故でダントツに多いのは、高齢者ではなく、16歳から19歳の年齢層の若者によるものです。なんと1年間で、1251件も起きています。さらにいえば、16歳から19歳の年齢層の次に、多くの交通事故を起こしているのも20歳から24歳の若者で、年間754件に上ります。

もし、テレビ局が本気で交通事故を減らそうと考えるなら、高齢者ドライバーよりも圧倒的に多くの事故を起こしている若者ドライバーを指弾すべきですが、そんな報道はほとんど見られません。こうしたテレビの報道だけをただ鵜呑みにして、一般的に「高齢者ドライバーによる重大事故が多発している」と思い込むようなことを積み重ねると、脳と心の老化は進んでいきます。

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「新型コロナで1万人が亡くなった」というのは事実だが…

この〈過度の一般化〉の逆パターンともいえるのが〈選択的抽出〉です。

高齢者ドライバー問題を報じる際のテレビは「ごくわずかな、特定の高齢者ドライバーの問題」を、「すべての高齢者ドライバーの問題」と錯覚させる手法を使っていましたが、新型コロナ関連の報道では〈選択的抽出〉を多用していたように思います。

たとえば、有名芸能人の死を抽出して、必要以上に怖い病気として報じました。〈選択的抽出〉とは、「複雑な状況」に対して、ごく限られた「一部」だけに注目して、それ以外の「大部分」が見えなくなってしまうという、認知の歪みです。

新型コロナは、病気のなかでもっとも恐ろしい感染症でしょうか? テレビは「そうだ」と言い、自分たちの望むイメージを拡散するべく、行動制限の重要性ばかりを強調した番組を作っています。そして、国民に対しては事実上の「引きこもり」を求めてきました。

私は流行の当初から、まったく違う立場を表明してきました。日本で新型コロナによる死亡者数が1万人を超えたのは、昨年の春(2021年4月26日)です。この数字だけを見ると、新型コロナが日本に入り込んでから約1年で、1万人以上が亡くなったことになります。この死亡者全体の約8割を占めたのは70代以上の高齢者で、10代以下の死亡者はゼロでした。しかし、〈選択的抽出〉がされたこのデータだけに注目してしまうと、真相には辿りつけません。

もっとも注目すべきは、テレビが「新型コロナによる死者が1万人を突破」と恐怖を煽っているとき、じつは時期としてちょうど重なるコロナ禍の「全国の死亡者数」(2020年)は、11年ぶりに「減少」に転じていたのでした。この死亡者数には、テレビが言うところのコロナ死の約3500人も含まれています。