なぜテレビは芸能人の不倫を叩くのか

テレビという洗脳装置は、時として全体主義的な行動と結びつきかねません。私がそれをまざまざと感じるのは、有名な芸人や俳優のセックス・スキャンダルについてです(なぜかテレビマスコミを経営する新聞社の野球チームの選手のスキャンダルは報じられませんが)。

確かに彼らがしたとされることは決してほめられたことではありません。女性の尊厳を傷つけるという点では、現代のモラルとして許されないものといえるでしょう。しかしながら一方で、コメンテーター、あるいは、その発言を聞いた視聴者が、自分が正義の味方になったような感覚でそれを断罪するのは、メンタルヘルスにはけっして望ましいものとはいえません。

一つには、悪いことをしたからといって、完全な悪人になったと考えるのは、まさに前述した〈二分割思考〉そのもので、その人にもいい面も悪い面もあるということが忘れられているという問題があります。この思考パターンは脳の前頭葉にもメンタルヘルスにも望ましくないものです。

もう一ついうと、たとえば「人間たる者、かくあらねばならない」、「有名人は○○でないといけない」という〈かくあるべし思考〉は、自分がそうできなかったときに、うつになりやすい考え方の典型とされています。さらにいうと、人が、その「かくあるべし」に沿わなければ、つい腹を立ててしまう、場合によっては攻撃してしまうことになり、人間関係にも悪いパターンです。

「かくあるべし志向」は脳の老化を進めてしまう

もちろんこの〈かくあるべし思考〉は、悪い点が一つでも見つかるとその人を排斥するキャンセル・カルチャーのもとになります。

和田秀樹『テレビを捨てて健康長寿 ボケずに80歳の壁を越える方法』(ビジネス社)
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人間というのは、そうそう「かくあるべし」通りに生きられるものではありません。特に年をとってからは、いろいろな妥協ができないとのびのびと生きていけず、次第に世の中と距離をとる理由になります。

テレビの「かくあるべし」に従って自粛生活を続けていたら、多くの人が歩けなくなるように、テレビの「かくあるべし」に乗っかって、つかの間の「正義の味方」気分を味わっていると、いつの間にか自分を苦しめ、メンタルヘルスを悪化させ、そして脳の老化が進みます。さらに、いつの間にか、自分で考えなくなって、みんなが同じ「かくあるべし」に染まることで全体主義が形成された過去があることを忘れてはならないと、私は思います。

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