高齢者はテレビをよく見る。しかし、そこには危険性もある。老年医学の専門医である和田秀樹さんは「テレビの『かくあるべし』に従って自粛生活を続けていたら、多くの人が歩けなくなってしまうだろう。テレビは二分割思考という極端な手法を使うので、見続けると大変なことになる」という――。(第2回)

※本稿、和田秀樹『テレビを捨てて健康長寿 ボケずに80歳の壁を越える方法』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

自宅でテレビを見ている先輩男性
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テレビによって増幅される「認知の歪み」

テレビによってより増幅される「認知の歪み」は、うつ病になりやすい不適応思考という思考パターンであると認知療法の世界で考えられているものです。そして、前頭葉を使わなくなるため、脳と心の老化につながるとも考えられます。不適応思考には12パターンあり、これは、テレビ番組が使う「手法」によって説明することができます。そのなかの主なものを紹介していきましょう。

互いに相反する「たった2つの見方」だけが提示されて、そのどちらかしか思いつかないようになった場合の思考パターンが〈二分割思考〉です。これは先ごろ起きた安倍元総理の殺害事件を報じるテレビ報道に顕著に表れていました。

当初、この事件は政治的テロの可能性を疑われていましたが、今では、韓国に本部を置く新興宗教である旧統一教会に入信した母親から、児童虐待を受けていたサバイバーの男性によるものと判明しています。事件の背景には、児童虐待のサバイバーにしばしば見られる複雑性PTSDの心理がからんでいるように思いますが、ここで書きたいのは、加害者のことではなく、亡くなった安倍元総理の「報じられ方」です。