「柳井流」はどこまで通用するか
ファーストリテイリングは、いろいろな意味で「柳井正会長兼社長の会社」だ。
アパレル業界の常識を打ち破り、世界化を果たしただけでなく、時価総額でアパレル世界一にまでなった日本を代表する企業であり、私たちの憧れでもある。
私は同社の何人もの卒業生に会ったことがあるが、皆口を揃えて「柳井塾」の素晴らしさ、その経営の神髄を絶賛していた。
一方で、多くのOBの声をまとめると、「より大きく」「より高く」を相変わらず絶対的価値として位置づけているという。
その点を踏まえ、私は以下を、同社の成長のブレーキ要因となり得るものとして捉えている。
1.欧州のトップアパレルであるZARAやH&Mなどは、アジアに成長エンジンを置いているファーストリテイリングなどの企業に対し、「環境」「サステナブル」などの新しい軸による「新しい勝ち方」「新しいゲームのルール」を欧州で作り上げ、アジア市場でもそのルールを押しつけてくる可能性が高い
2.「ESG経営」を現場のDNAレベルまで浸透させられるかは、現状のままのファーストリテイリングには疑問符が付く。柳井氏は今なお「成長しないことは死を意味する」と発言しており、ESG経営との間で大きな矛盾を感じる
3.新疆ウイグル自治区の綿糸のように、ファーストリテイリングは米中経済戦争に巻き込まれる恐れがある。この問題は、サステナビリティの潮流に基づいた、米国による中国へのけん制である。一方、中国においては自国文化の素晴らしさに目覚めた「国潮ブーム」により、売上が低迷する恐れもある。日本という八方美人国家の下で、シャープな事業戦略を実行できるのかに焦点が集まる