高度認知症と寝たきりは同じではない

一方、「アメリカ老年医学会、米国アルツハイマー協会、ヨーロッパ臨床栄養代謝学会は、高齢者や認知症患者への胃ろうは反対しています」というツイートもありました。

確かに海外のガイドラインでは、高度認知症の患者さんに対し、胃ろう栄養や経鼻栄養を開始しないことが推奨されていますが、これも経済的な理由からではありません。主な理由は、高度認知症患者に対して胃ろう栄養をはじめとした経管栄養を行っても、生活の質の改善や生存期間の延長はないと考えられているからです(※1、2)

そして、ここで注意が必要なのは、胃ろうが推奨されない対象は「高度認知症患者」であって「寝たきりの高齢者」ではないことです。この区別をあいまいにしたまま海外の学会を引き合いに出して「寝たきり老人の胃ろうに保険適用しない」と主張するのは問題があります。認知機能を保ったまま寝たきりになる高齢者もいるためです。

寝たきりの高齢者に対して、一律に胃ろう栄養の保険適用を止めると、こうした患者さんが口から食べられなくなったとき、認知機能が保たれたまま餓死することになりかねません。

※1 American Geriatrics Society Feeding Tubes in Advanced Dementia Position Statement
※2 ESPEN guidelines on nutrition in dementia

写真=iStock.com/Barcin
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日本の胃ろう栄養の効果や安全性は高い

「そうは言っても、日本で行われている高度認知症患者への胃ろうは無駄だ」という意見もあるかもしれません。これまで日本で胃ろう造設が多かったのは事実ですが、高度認知症患者に限っても、胃ろう栄養の是非は議論になるところです。胃ろうを造る群と造らない群にランダムに振り分ける臨床試験は行われておらず、エビデンスは不確実です(※3)

実は、海外の学会の主張と異なり、胃ろうが生存期間や誤嚥ごえん性肺炎の予防に役立つという日本発の研究は複数あります(※4、5)。さまざまな条件が異なりますので直接比較はできないものの、胃ろう造設後の死亡率が日本では低いというデータもあります(※6)。欧米と比べると、日本のほうが胃ろう栄養の効果や安全性は高いようなのです。

欧米と日本で胃ろう栄養の治療成績が異なるのはなぜでしょうか。日本人は胃がんの発生率が高いこともあって、もともと欧米と比較して上部消化管内視鏡のレベルが高かったことに加え、胃ろう造設の症例を積み重ねることで技術が進歩したのではないかと考えます。胃ろう造設および管理の技術が高い日本においては、欧米のガイドラインをそのまま適用することには慎重になるべきです。

※3 Is tube feeding futile in advanced dementia?
※4 Tube feeding decreases pneumonia rate in patients with severe dementia: comparison between pre- and post-intervention
※5 Long-term prognosis of enteral feeding and parenteral nutrition in a population aged 75 years and older
※6 『日本老年医学会雑誌』49巻2号「胃ろう栄養の適応と問題点