さらに一歩踏み込み、スマホ依存者を治療するための基金や施設が設けられることも望みます。かつて自動車メーカーが呼びかけ人となり、交通遺児を支援する基金を立ち上げたことがありました。スティーブ・ジョブズが初代iPhoneを発表してから15年、大手メーカーやキャリアはスマホを通じて多大な利益をあげてきたはずです。スマホ依存に悩む顧客をケアすることも、スマホ関連企業の社会的役割のひとつだとは私は考えます。

テキストチャットより通話機能を使おう

ここまでスマホ批判が続きましたが、いうまでもなくスマホは非常に便利な道具であり、私自身手放す予定はありません。大部分の人は同じ思いでいることでしょう。ならば大切なのは、スマホ断ちというより、スマホの有効な使い方を身につけることです。

そのためには改めて、スマホの持つさまざまな機能に目を向ける必要があります。

まず改めて意識したいのは、スマホの通話機能です。今では、人と連絡をとり合うときはメールやSNSなどテキスト主体のコミュニケーションが増え、人が電話する姿を見かけることが少なくなりました。しかし短い文章のやりとりのみで、本当に大事な話が伝わるでしょうか。電話はかつて、親密なコミュニケーション手段のひとつでした。他愛もない話題で何時間も長電話を続けた記憶を、多くのシニア層は持っているはずです。

指でテキストを入力するより、声に出して話すほうがよほど簡単ですし、自分の気持ちも相手の気持ちもすぐに伝わる感覚があります。かつて私たちは、そうした1対1の濃厚な人間関係の中で、自分は孤独ではないことや、悩みや不安が自分だけのものではないことを確認していました。そんな過去を思い出しながら、あらためてスマホを電話として使ってみる。LINEの無料通話などを利用すれば、電話代がかからないのも好都合です。電話文化の復活を私は期待しています。

情報収集の手段としても、スマホは力を発揮します。しかし残念なことに、ネットニュースをなんとなく読み流しておしまいにしている人が大半である気がします。大切なのは、気になるニュースを見つけたら立ち止まり、「ちょっと調べてみよう」と考えられることです。

「この初めて聞く国は、どこにあるんだろう?」「この経済用語、うまく説明できないな」……。そう思ったときにすぐ検索して深掘りできるのがスマホのよさです。認知心理学では、情報(知識)は思考の材料であり、知識なくしてものを考えることはできないとされています。脳に一定以上の知識のストックがなければ思考はできないのです。スマホですぐ情報にアクセスできる現代は、それを脳に入力することで誰でも知識人になれる時代の到来を意味します。スマホとは「知のツール」でもあるのです。