スマホ依存が行き着くのは「自分病」です。これは心理学や精神医学の正式な用語ではなく、「自分」というものが希薄になる現象を私が命名したものです。リアルでの人間関係において、1対1でコミュニケーションをしているうちは、相手と向き合っている現実の自分を否応なく意識させられます。「自分が薄くなる」という感覚はピンとこないでしょう。

ところがSNSを介して、みんなからどう思われているかばかりを気にするようになると、だんだんみんなの目に映るバーチャルな自分の存在が大きくなってしまう。みんなに合わせ続けることでしか自分を保てなくなり、リアルの自分よりネットの自分を大事にするようになります。やがては「歩きスマホ」「ながらスマホ」が示すように、自分が今いる現実世界よりも、スマホの中の世界を優先し、周囲への迷惑も顧みなくなる。自分病の末路です。

8割の日本人がスマホ依存

スマホに依存してしまうのは、肌身離さず持ち歩きができることが大きな原因です。家でも会社でも、食事中も仕事中も、ベッドの中でもスマホを手にしている。むしろスマホを手放している時間のほうが少ないぐらいではないでしょうか。2018年、WHO(世界保健機関)が新たな依存症として認めた「ゲーム障害」も、スマホの普及と切り離しては考えられません。

ほかに依存性が高いものといえばギャンブルがありますが、街中にパチンコ店があるといっても移動する労力や、費やすお金を考えれば、ある程度自制するようになります。しかし、スマホは常にそこにあるのです。電話やメールができてネットにもつながり、人付き合いもできる。さまざまな欲求がすぐに満たせるのです。そんな便利なツールが手元にあって24時間使えたら、依存症になるのも無理はありません。

これほど依存性が高いスマホなのに、アルコールやタバコのような各種規制がないところがまた厄介です。これは日本特有の依存症への認識の甘さを示しています。WHOが10年にアルコールの危険性を減らすための世界戦略を承認して以来、ほとんどの国ではテレビCMなどでアルコールを飲んでいる映像を使えなくなりました。ところが日本では、有名タレントが美味しそうにビールを飲み干すCMがいまだに定番です。パチンコのCMも地方局ではひっきりなし。そして今、スマホゲームのCMがどんどん増えていることにも危うさを感じずにはいられません。

「タバコやお酒の依存とスマホ依存を、同列に並べるなんて大げさだ」と感じる人もいることでしょう。事実、ほとんどの日本人は自分を依存症とは認めません。しかし、集中力の低下など目立った自覚症状はなくとも「やめようと思ってもやめられない」段階にきているなら、すでに立派な依存症と考えるべきです。「日本人の約8割がスマホ依存に該当する」という調査結果もあります(図)。誰にとってもスマホ依存は人ごとではないのです。