「極刑を回避すべき決定的な事情とは認められない」
被告人質問で動機を問われた際「分からない」と答えていることが多く、「反省は表面的で内省の深まりは乏しい」とされた。さらに、残された被害者遺族の峻烈な処罰感情をも加味し、2人以上殺害した場合死刑適用という永山基準で示された「動機」「殺害方法」等の要素に言及し「若年であることなどから更生可能性は否定できないが、極刑を回避すべき決定的な事情とは認められない」と判示している。
弁護側は、義母の叱責により精神的に追い詰められたとして死刑回避を主張したが、「義母に行き過ぎは少なからずあるが大きく考慮するのは適当でない」として退けられた。
判決に対し弁護側は控訴したが、2012年3月22日に棄却された。しかし、この控訴期間は、章寛が事件と向き合うために重要な時間となった。弁護側は、臨床心理士による情状鑑定を実施し、章寛が犯行に至った動機の解明を行った。
恐怖感と絶望感から視野狭窄に陥ったゆえの犯行だった
私は、これまでもいくつかの殺人事件の裁判において、鑑定人と弁護人とをつなぎ、その鑑定書に目を通してきた。鑑定結果から、自分では気が付いていなかった特性や心理状態を自覚していく過程は、自分の問題に気が付き、同じ過ちを繰り返さないために不可欠な作業である。本件でも、鑑定の過程において、弁護人や親族だけでなく心理の専門家とのコミュニケーションから、あまり得意ではなかった感情の言語化ができるようになり、償いに対する積極的な姿勢も見えてくるようになった。
鑑定意見書は、「本件犯行動機は、利欲的な犯行ではなく、義母からの暴力から逃れたい一心で、恐怖感と絶望感から視野狭窄・意識狭窄に陥ったゆえの犯行」だと主張した。章寛は、犯行動機について、義母の存在から解放されたかったのであり、妻子と3人で暮らしたかったと何度も述べている。