「余命は週単位で考えたほうがいい」
▼告知から20日目(2020年6月2日)
国立がん研究センター中央病院での診察は、改めて土谷さんに厳しい現実を突きつけた。検査の結果、手術、放射線、抗がん剤、いずれも積極的な治療は勧めない、という診断だったのである。土谷さんの胆嚢がんは、膵臓と肝臓に転移して、肝不全の一歩手前まで進行していた。
医師は土谷さんのいないタイミングで、診察に同行した友人に「ご本人には余命3カ月と伝えましたが、実際は週単位で考えたほうがいい」と言ったという。
「週単位」ということは、来週には終末期になるかもしれない切迫した状態である。終活の準備なども考えると、医師から本人に伝えるべき大切な情報ではないか。友人はそう思って困惑したが、自ら土谷さんに伝える事はできなかった。
すでに終末期が迫っていることを知らない土谷さんは、これから治療の可能性を探り続ける意思を友人たちに告げていた。
〈(国がんの医師に)他の治療法についても聞きましたが、肝機能がこの状況だとそれもリスクが大きすぎて難しいとのこと。余命も率直に3カ月程度と言われました。もちろんまだ可能性は探りたいので、色々検討したいと思います。並行して緩和ケアホスピスへの入院も検討します〉(※土谷さんが友人に送ったメッセージ)
8リットルの腹水が溜まり、黄疸も悪化
▼告知から33日目(6月15日)
「少しお腹が出たようだけど、どうしたの?」
スリムな体型だった土谷さんのお腹だけが、妙に膨らんでいる事に友人は気づいた。
「実は腹水が溜まってしまって……」
この日は、土谷さんの知人である医師を交えて3人で、今後の治療方針を考えることになっていた。
「最近の体重は?」と医師がきいた。
「はい、普段は52kg前後なんですけど、いま60kgになっています」
つまり、8リットルほど腹水が溜まっている状態だ。しかも肌や白目が黄色い。肝臓の機能が大幅に低下したことを示す黄疸の症状が悪化していた。知人の医師は、がんを治すための治療を行う時期は過ぎていると感じたが、伝えるのを躊躇った。土谷さんは、治療を受けたいという気持ちが強かったからだ。
「先生、今から打つ手はありますか?」
土谷さんの問いに、知人の医師はこう答えるしかなかった。
「都立駒込病院でオプジーボ(免疫チェックポイント阻害薬)の治験が行われているようですが、エントリーできるかもしれません。明日の診察で、担当の先生に検査データをみてもらって相談してはいかがですか」