「ステージ4の患者が長期生存した」?
この時、土谷さんは診察室から友人に電話を入れていた。「高度活性化NK細胞療法」の治療を受けるため、友人に身元保証人になってほしいと依頼するためだった。
この友人は、前日に土谷さんが聖路加国際病院の緩和ケア科を受診した際も同行していたので、免疫細胞療法の治療を受けるという話に戸惑い、こう聞いた。
「緩和ケア病棟に入院する予約はどうするの?」
「大丈夫ですよ、その事はクリニックの先生に相談しました。聖路加の緩和ケアは、入院予約をこのままキープして待ってもらえば良いそうです」
土谷さんの“どうしても生きたい”という思いを感じて、友人は身元保証人を引き受けることにした。診察を終えると、彼はまたすぐに電話をしてきた。
「やっと良い治療が見つかりました! クリニックの先生いわく、『膵臓がんや胆嚢がんは、どんな医師でも余命3カ月、というのが決まり文句』だそうです。ステージ4で抗がん剤ができないと言われた患者が、クリニックの免疫細胞療法をやって長期生存したそうです。これを聞いて、めちゃくちゃ元気が出ました!」
「特別な上級国民コース」と勧められた高額治療
いつもはクールな土谷さんが、めずらしく興奮していた。たまたま友人は、自由診療の免疫細胞療法が詐欺的である、という記事を読んだことがあった。その治療は本当に大丈夫なのかと聞くと、土谷さんからこんな言葉が返ってきたという。
「先生から教えてもらったのですが、この免疫細胞療法は非常に高額で、経済的に余裕のある人にしか選択できない、選ばれし者だけの治療なのでオープンにできない、特別な上級国民コースだそうです。だから普通の病院では、やっていない治療らしいですよ」
土谷さんがこの医師を信じたのは、同じ東大出身だったことが大きく影響していた。彼は病院を受診する時、医師が東大医学部の出身であるか、必ずチェックしていたのだ。そして、土谷さんは医師のこんな言葉に感激したと友人に話している。
「君は東大の後輩だし、特別に頑張って最優先で治療するよ、と先生が言ってくれました。初めて東大を出て良かったと思いましたよ、本当に」
このクリニックがウェブサイトに掲載している、免疫細胞療法の治療費は、1クール(6回投与)で約230万円となっているが、友人の記憶では、土谷さんが提示された金額は一桁違っていた。ただし、外資系の生命保険から生前給付が下りたので、支払いは十分可能だった。
初めて訪れたこのクリニックで、土谷さんは免疫細胞療法を受けることを決め、その場で採血された彼の血液は培養作業に回された。