「約1億5000万円の詐欺で懲役9年」は重すぎる?

先日、「頂き女子りりちゃん」と呼ばれる25歳の女性が、詐欺罪、詐欺幇助罪、所得税法違反の罪で懲役9年、罰金800万円の判決を受けました。

SNSなどで「頂き女子りりちゃん」と名乗っていた渡辺真衣被告
写真=時事通信フォト
SNSなどで「頂き女子りりちゃん」と名乗っていた渡辺真衣被告(=本人のYouTubeより、2023年11月)

判決が認定した事実によると、その女性が3人の男性から騙し取ったお金は総額約1億5000万円、そのお金を申告せずに脱税した金額は約4000万円にも上ります。また、詐欺の手口をマニュアル化したものを販売し、他の人が同様の詐欺をすることの手助けをしたことも認定されています。

報道や、公表されている女性の手記などから、女性がこのような犯罪に手を染めたきっかけは、推しのホストをナンバーワンにすべく大金をつぎ込むためだったようです。そのホストも、女性が詐欺で得たお金と知りながら、そのお金を店で支払わせたという組織犯罪処罰法違反の罪で逮捕され、現在裁判が行われています。

世間では、女性に対する刑が重すぎるのではないか? いや、これだけのことをして軽いのでは? などとさまざまな声が上がっているようです。

詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」と刑法で定められています。被害総額が大きくなければ執行猶予判決か、実刑でもそれほど長期間の懲役刑になることはありません。ただし、複数の詐欺があったり、他の罪名もあったりする場合は、長期間の懲役刑になったり、詐欺罪の法定刑上限を上回る懲役刑になる場合もあります。

父親からは虐待を受け、母親は裁判に出てくれなかった

この事件の場合、女性の手口の巧妙さ、悪質さ、被害金額の大きさ、騙した行為の数、被害者の受けたダメージ等からすると、重い処罰になるのはある意味当然と言えます。

判決は「言葉巧みに好意があるように装って自身への恋愛感情を抱かせる」「時には一人二役を演じる等して数々の金銭的な問題を抱えているようにほのめかす」「男性心理を手玉に取り、好意に付け込む狡猾な犯行」と断じています。詐欺に加え、脱税額もかなり高額です。

しかし、犯罪の背景には、父親から虐待を受け、家庭にも学校にも居場所がなかったなどの事情があったようです。女性の手記には、「父からライターで火をつけられる」「何度か殴られた」「殺すと言われた」などの少女時代の過酷な体験が書かれており、勇気を出して110番通報したのに警察にまともに取り合ってくれなかったとのことです。

周囲に信頼できる人がおらず、自己肯定感が著しく低下した中で、自分を褒めてくれるホストにのめり込んでいったのかもしれません。弁護側もそういった背景を考慮すべきであると主張していました。母親が情状証人として裁判に出てくれなかったことも、女性にとってはかなりショックだったのではないでしょうか。