弁護士が意外に感じた今回の判決

判決前にメディアから取材を受けた際、記者から「確かに生い立ちはかなり気の毒で、なぜ彼女に救いの手が差し伸べられる機会がなかったのだろうか、とは思う」という話を聞き、女性のそのような境遇がどのくらい判決に考慮されるのか、個人的に注目していました。

しかし、判決では、そういった事情は一切考慮されなかったようです。確かに、いかに生い立ちが不幸であっても、それとはまったく無関係の人に対する犯罪で、刑を軽くするのは筋違いでしょう。ただ、「被告人の生い立ちに不幸な面があることは否定できないが、それを被告人の情状として重視すべきではない」など、何らかの言及はあるのではないかと思っていたので、何も触れられなかったことは意外でした。

詐欺は、立件が最も難しい犯罪類型のひとつです。「必ず返すからお金貸して、と言われて貸したのに、後から返せないと言われた。これは詐欺だ」という相談はよくあります。しかし、最初から返すつもりがなければ「騙した」ことになりますが、その時は本当に返すつもりだった、というのであれば騙したことにはなりません。

刑法の詐欺罪は、次の点を満たすかどうかによって判断されます。

●人をだましたり、嘘をついたりする
●だました被害者に勘違いをさせる
●被害者が勘違いのために財産を渡す
●加害者が被害者の財産を受け取る

金品を騙し取られれば刑法上の「結婚詐欺」が成立する

刑法の詐欺罪が認められるには、加害者の行為が上記4つをすべて満たし、それらに因果関係があることを証明する必要があります。

たとえば「だますつもりはなかったが、被害者が勘違いをして代金を支払った」という場合は詐欺とはみなされません。

詐欺は証明することが難しい犯罪です。加害者側が「だますつもりはなかった」「被害者が勘違いしただけ」と主張した場合、そうでないことを証明するのがどうしても難しいためです。しかし、被害者が複数いるのであれば、証明がしやすくなる場合があります。

民事訴訟の場合、相手にお金を渡した経緯や金額などのさまざまな要素に問題がなかったかどうかを検証し、契約の無効や取り消し、慰謝料の支払いなどを主張していくことになります。

また、刑法の詐欺罪は、騙し取る対象が金品であることが必要です。「結婚すると言っていたのに、他に彼女がいた。騙された、結婚詐欺だ」「結婚したとたんに人が変わったように態度が冷たくなった。資産目当ての詐欺だ」など、一般的に「詐欺」という言葉は広く使われていますが、「結婚詐欺」が刑法の詐欺になるには、「結婚するつもりがないのに、結婚をエサに金品を騙し取った」ことが必要です。