久石氏の音楽について同紙は、「切なさと快活さが交互に押し寄せ」るとの評価だ。同時にまた、ススの精霊である「まっくろくろすけ」やネコバスなどのパペットも重要な存在になっているという。
演者は姉妹とも成人の女性だ。姉の草壁サツキ役はアミ・オクムラ・ジョーンズ氏が、妹のメイ役はファーストネームが同名のメイ・マック氏がそれぞれ演じる。
大人が小学生ほどの役を自然に演じることから、苦労も垣間見える。ガーディアン紙は姉妹役の二人が「大きな笑顔で駆け回るなど、大変な子供の演技をしなければならない」と指摘している。
当のメイ・マック氏も英BBCのインタビューに対し、アニメ特有のピッチの高い声でめいっぱい「サツキー、どこー⁉」と叫ぶなど、「興味深い声のトーン」を駆使する苦労を語っている。
トトロのイメージを守るための工夫
映画版のキャッチコピーでトトロは、「このへんないきもの」とされている。原作通りの不思議なイメージを引き継ぐにあたり、舞台でも細心の注意が払われたようだ。
BBCのインタビュアーが「おそらくスタジオジブリは、彼らの映画を守りたいという姿勢が強かったのではないでしょうか」と問いかけると、パペット制作チームのバジル・ツイスト氏は、ジブリ側とかなり綿密な調整を繰り返したと明かしている。
2次元の世界で成立していたキャラクターも、舞台化で3次元の姿となると、そのまま立体化しただけでは魅力的な印象とはならない。そのため大中小の各種サイズが用意されたトトロは、その目の位置や頭の形など、細部にわたって調整を行ったという。
ツイスト氏は苦労をにじませながらも、「彼ら(ジブリ)には彼らの意見があり、納得してもらえるよう尽しました」と笑顔で語った。
英イブニング・スタンダード紙によると日本側からは、パペットが機械的な動きをせず、温もりを感じられるよう重ねてリクエストがあったようだ。
苦労の結果、機械でもなく日本の伝統の文楽の人形とも異なる、「風の精霊」と呼ばれる独自のスタイルを持ったパペットが完成した。大きなトトロ人形には数えきれないほどの毛糸を貼り付け、「触りたい」「お腹のうえで眠りたい」と感じられるような印象を再現したという。
一方で映画と舞台両方の存在を意義あるものとすべく、舞台版にはストーリーの修正が加えられている。特定のシーンを再解釈して掘り下げたり、サツキの友人であるカンタがより大きな役割を担うようにしたりなどの変更を加え、新鮮な印象を持って鑑賞できるよう配慮がなされているようだ。
「自然へのラブレターだ」英紙が報じたブレイクのワケ
イブニング・スタンダード紙は本作を、「秋の必見の舞台作」と称賛している。「日本の偉大な文化輸出集団」であり「世界中に熱狂的なファンを多数持つ」ジブリだからこそ、バービカンのチケット記録を更新したのだと解説している。