同紙は原作を、「日本文化、神秘主義、そして神道によるささやかな活気を帯びており、自然へのラブレターでもある」と表現している。
舞台版プロダクション・デザイナーのトム・パイ氏は、欧州で環境への関心が高まる今日、「トトロは環境へのメッセージで時代に即しており、ブーム再燃はもっともなことだと考えています」と同紙に語った。
自然に対する姿勢は、大道具にも表れている。自然豊かな原作の背景を再現すべく、舞台にプラスチック製の木の葉を茂らせる案もあった。しかし、偽の樹木はジブリ作品にそぐわないとして、現地チームの判断で採用を見送ったという。
「緑のプラスチックほど日本的でないものはないと思ったのです」とパイ氏は語る。
代わりに美しさが際立つ木組みの建築でサツキとメイの家を再現した。一部には日本の伝統的手法であり耐久性に優れる焼杉板が採用されている。
舞台化で生まれる好循環
バービカンの記録を更新した熱狂的なチケット販売実績は、イギリスにおけるトトロへの潜在的な関心を物語るかのようだ。
日本では映画版のトトロはTVでも繰り返し放送されており、一度は観たことがあるという人も多いのではないだろうか。
一方、ヨーロッパではトトロの愛らしい姿形こそよく知られていながらも、ほぼ全員が観たことがあるというレベルには達していない。アニメは幼い子供向けのものだという固定観念が強いことも、視聴をためらう一因になっていることだろう。
そこへ10月から始まった舞台版は、ジブリファンの裾野を広げる効果を生んでくれそうだ。
自然と環境へのメッセージをさりげなく込めたストーリーにも、注目が集まっている。環境問題に関しては日本よりもむしろ欧州で関心が高い印象があるが、34年前に公開された「トトロ」は、時代を先取りしていたのかもしれない。
近頃は、鈴木敏夫プロデューサー自身がジブリは「開店休業状態」と言うまでに、新作公開のペースが落ち込んでいた。しかし現在は宮崎駿監督が、長編新作『君たちはどう生きるか』の完成に向けて奮闘している。11月1日には、愛知県の愛・地球博記念公園に「ジブリパーク」が開園した。イギリスでの舞台化と併せ、2次元の世界を突き抜けて展開するジブリから目が離せない。