山口氏の両親は、尋常ではない熱量で気象にのめり込んでいる息子に苦言を呈すこともなく、温かく見守ってくれていたという。

「中高大とつながっているエスカレーター式の私立校だったので、受験勉強をする必要がなかったんです。とりあえず大学へ上がれる成績ではあったので、親もそこまで心配せず、もう好きにやってろと(笑)」

『理科年表』が頭の中に入っている

時間をもう一度、彼の中学時代に巻き戻す。

中1での降雪記録と並んで、今の山口氏につながる中2時の運命的な出会いについても触れておかなければならない。

1986年11月、伊豆大島の三原山で噴火が起こった。全島民1万人が避難を余儀なくされた大規模なもので、山頂から溶岩が噴出している鮮烈なニュース映像をテレビで見て以来、彼は火山や地震といった地象にも関心を持ち始めていた。そんな折、たまたま入った本屋で、書棚に置かれていた小さいけれど分厚い本が目に留まった。背表紙には『理科年表』とある。

撮影=プレジデントオンライン編集部
中2時、運命的な出会いをして購入した理科年表。以降毎年買い続けている。

「なんだこれ、と手に取ってぱらぱらめくってみると、過去の地震データが克明に書かれてるじゃないですか。もう感動しちゃって、手持ちがなかったので親にせがんで買ってもらいました」

『理科年表』とは国立天文台が編纂する科学データブックで、1925年の創刊以来、毎年発行されている。中身は天文部、物理/科学部などに分かれており、山口少年がたまたま開いたのは地学部のページだった。日本で起こった歴代の大地震が記載されていて、最古の記録はなんと西暦416年のものだ。

「そこまでわかっていることに衝撃を受けて、今度は地震の方にも興味を向けるようになりました。まさに、人生を変えた一冊です。学校から帰ると毎日貪り読んでいたので、知らないうちに地震のデータリストは全部覚えちゃいました」

『理科年表』は毎年改訂されるが、わずかに追加事項が増えるぐらいで中身はほとんど変わらない。それでも彼は本屋で偶然“発見”した中2時以来、今も版が新たになるごとに買い続けている。

理系科目が苦手で法学部に進学

ここまで気象・地象に熱中しているとなると当然、大学で専門的に勉強したいと考えるのが自然だ。

「地球物理学部とか理学部に進みたかったんです。卒業後、気象や地象に関係した仕事に就けるかもしれませんし。ただ私、理系科目が苦手で高校時代は文系コースだったんですよ。けれどどうしても行きたくて高3の夏休みから独学で微分積分にチャレンジしたんですが、そんなもの無理に決まってるじゃないですか(笑)。結局1カ月ちょっとで諦めました」

というわけで、おとなしく法学部を選択。

「文系学部の中では一番面白そうに思えたんです。文学や経済には全然興味がわかないけど、法律なら自分の生活にも直接関係してくるから知っておくのもいいかなぐらいの気持ちで進みました。もちろん、司法試験を目指すなんてハナっから考えてません」