相手の困っている状況を解決することで信頼を得る

人が「このブランドなら信頼できる」と納得してファンになるには、「機能性」を強くアピールする情報発信が効果的となる。「機能的にいかに優れているか」を分かりやすく具体的に伝えることが重要だ。「機能的な価値をいかに(苦労の末に)実現したか」を伝える開発プロセスの物語も、顧客の納得感を高めるために有効になる。

この信頼タイプのファンマーケティングは、「相手の困っている状況を解決する」というニーズを満たす顧客志向が重要となり、その意味で、企業にとって実行しやすいものである。「顧客を満足させて信頼を獲得する」というマーケティングの基本に忠実に計画・実行すれば良いからだ。ただし、「一度の失敗で信頼を失いやすい」「一度失った信頼は取り戻しにくい」「機能的な価値だけでは、高価格で売りにくく、ライバルからマネされやすい」といった特徴も持っている。

世界でファンづくりに成功した「富士フイルム『チェキ』」

「Made in Japan」の高品質、アナログとデジタルを結び付けた新しい利便性、そしてブランドの作る独自の世界観などへの高い信頼を通じて、世界でファンづくりに成功しているのが、海外では「instax」という名で親しまれている富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」だ。1998年に発売されると、若い女性ユーザーを中心に人気に火が付き、2002年に年間販売台数が100万台を突破した。デジタルカメラやカメラ付き携帯電話の波に押されて2004年には10万台まで落ち込むが、そこから奇跡のV字回復を遂げ、2018年には世界で1000万台を販売するグローバルブランドへ飛躍して、世界中のファンに愛用されている。

写真=iStock.com/martin-dm
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デジタル化という巨大なトレンドの波に逆行するように再成長を果たした背景として、1つには、海外市場の開拓がある。2007年頃から韓国のテレビドラマなどで物語の中にチェキが登場し、強力な広告効果を発揮して、アジア各国での販売が再成長した。また、SNSを通じたプロモーションに力を入れ、女優やモデル、ブロガーやSNSインフルエンサーなどの中でも、「本当にチェキが好きな人」に正直に発信してもらうことで、世界で「チェキ好き」のファンを拡大していった。

日本やアジアでの成功パターンを欧米でも上手く広げ、現在では売り上げの9割が海外となっている。2022年夏に製作費2億ドルの超大作としてNetflixで公開され、世界92カ国でランキング1位の大ヒットを記録したスパイアクション映画「グレイマン」でも、物語のカギを握る少女がチェキで主人公を撮り、写真を渡して交流するシーンが描かれるほど、世界中で馴染み深いものになっている。