就労調整のせいで、ほかの労働者の賃金が上がらない

実は所得や労働時間を限度内にとどめる就労調整は社会的にも問題視されてきた経緯がある。社会保険加入者を「501人以上」に決めた当時の厚生労働省の年金部会(2019年9月27日)で民間有識者の委員はこう述べている。

「第3号被保険者が近くのスーパーで働き始めると、単身者やシングルマザーなどの自身で生計を立てざるをえない方々の賃金水準とか労働条件に悪影響を与えるばかりか、近隣の商店街の経営にも悪影響を及ぼしかねないということになるのではないか」と指摘している(議事録)。

つまり、第3号被保険者が就業調整をするために賃金が上がりにくい構造になり、他の働き手の賃金も低いままに据え置かれ、地域経済にも悪影響を与えると言っている。そして「これはもはや一定程度正義の問題なのだろうと思います。社会保険は世界第4位の質を誇ると言われております。日本の労働市場への悪影響を排除するということ、これが喫緊の課題だと思っております」と問題提起している(議事録)。

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40年前は会社員の妻も保険料を払っていた

第3号被保険者制度は1985年の年金制度改正で導入されたものだ。それ以前は会社員の妻も任意で年金保険料を払って国民年金に加入していた。当時は約7割の主婦が国民年金に加入していたが、残りの3割は加入しておらず、将来、無年金状態になることが危惧された。本来なら強制加入させるべきだが、当時の政府は約7割の国民年金加入者も含めて全員の保険料負担を免除する第3号被保険者制度を導入した。当時は今と違って年金財政にもゆとりがあったし、政府としては、外で働く夫を支える妻の“内助の功”に報いたいという思いもあった。

だが、制度が導入されたのはくしくも男女雇用機会均等法の成立と時期が重なる。女性が働きやすくなるような制度を整備する一方で、女性を家に閉じこめておくような年金制度を設けるという矛盾を当初から内包していた。

その矛盾が時代の変化とともにあらわになっていく。夫婦共に正社員という共働き世帯が増加し、専業主婦世帯が減少していく。加えて、未婚者など単身者やシングルマザーも増加していく。一方、専業主婦でありながら働きに出る主婦パートも増加していくが、第3号被保険者の適用範囲内に年収を抑えようとする「就労調整」が顕在化していくようになると、共働き世帯や単身者から不公平だとの批判が沸き起こるようになったのは言うまでもない。