「ロイヤルファミリー」も戴冠式もスリム化

しかし、「公平と中立」という態度は女王に倣っても、チャールズ王がいままでとは異なる君主制を目指すことは明らかだ。まず大所帯である「ロイヤルファミリー」のスリム化。今後、王族として公務を行うのは、王と王妃のほか、アン王女とエドワード王子夫妻(未成年買春スキャンダルで王族としての称号を剝奪されたもう一人の弟アンドルー公は除く)ウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃の計7名だけになるとみられている。公式行事のたびにバッキンガム宮殿のバルコニーにわらわらとたくさんの王族が登場して手を振るシーンは、もうこれから見られないかもしれない。しかし、これで警備費から助成金まで含め王室予算は相当に縮小されるはずだ。

そして次に注目されるのが戴冠式。70年前に女王の戴冠が行われた日と同じ6月2日になるのではという見方もあったが、2023年5月6日に行われると発表された。サッカーのFA杯最終戦と、来年はリバプールが開催地となる有名なポップ音楽コンテスト「ユーロビジョン」の日程と重なることを避けての選択だとされる。こちらも新王は思い切り予算を減らしたいという意向を示している。世界中からたくさんの要人が専用ジェット機で集まるのは低炭素化の時代にそぐわないし、華美な祝典に巨額の国費を注ぎ込むのは、インフレで苦しむ国民の気持ちに寄り添うことにならないという考えからのようだ。

「王室は女王で終わった」の声も

また、基本的に戴冠式は王が「英国国教会(キリスト教)信仰の守護者(ディフェンダー)となる」ことを誓う宗教的儀式なのだが、マルチカルチャーな現代の英国を反映して、すべての宗教を含めダイバーシティーを祝うイベントにすることも検討しているらしい。

これには賛否両論が噴き出すことだろう。伝統的な英国文化がどんどん薄まり変化していることを嘆く王室ファンの中には「『意識高い系』君主なんて必要ない、王室はエリザベス女王で終わったのだ」と言う人たちがいる。チャールズ王の後継者であるウィリアム皇太子は、父よりもさらに意識高い系だ。

それとは別に、王室の公式行事は世界中の観光客を英国に呼び込む貴重な観光資源であり、その経済効果を軽視してはならないという見方もある。近衛兵の独特なユニフォームから総額350億ポンド(10月23日現在で5.8兆円)に当たるという数々の王冠や宝物類、そして王自身もすべて「ショーの目玉」。戴冠式は、公式行事最大の出し物として伝統を踏み盛大に執り行われるべきだと。そう言われれば、女王の葬儀は普段は触れることの少ない古い英国を見る機会として、確かにとても興味深いものだった。

「何があっても女王がいるからとりあえず大丈夫」という70年間も続いた安心感は消えてしまった。新しい王が女王と同じくらい長生きしても、君臨できる期間は20年余り。そしてその頃ウィリアム皇太子は60代になっている。やはりどう見てもエリザベス女王は特殊な存在だったのだ。これから英国は「王室は誰のもの? 誰のための、何のためのもの?」という問いを続けながら新しい時代を迎えることになりそうだ。

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