——Jリーグの理事は15人前後もいて、そこから選ばれる歴代チェアマンは初代の川淵三郎さんを筆頭に元日本代表クラスのトップ選手ばかりです。私は『起業の天才! 江副浩正8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)を書いたので、元リク(リクルートのOB、OG)の経営手腕を知っていますが、世間から見れば一介のサラリーマンに過ぎない村井さんがチェアマンになるというのは、かなりの驚きでした。
【村井】ですよね。実はこれ、チェアマンになってから語ることはなかったんですが、一つの縁があったように思います。実はチェアマンに指名される前の年の2013年に、「Jリーグの理念を実現する市民の会」で川淵さんに講演をお願いしたんです。浦和のパルコに来てもらいまして。400人くらい集まりました。
あまりの感動に2時間分をすべて“写経”した
川淵さんはなんでJリーグを立ち上げようと思ったのか。Jリーグを立ち上げることで、日本の景色をどう変えようと思っていたのか。そんな話を2時間みっちりしてもらって。あんまり感動したので、そのテープを全部書き起こしたんです。もう写経ですよ。一字一句、書き写すことで川淵さんが考えていたJリーグの理念が自分の頭の中に叩き込まれました。
せっかくなんで、その書き起こしを川淵さんのところに持っていった。そしたら「これはすごいね」と喜んでくれて。
Jリーグには「指名委員会」があって新しいチェアマンはそこが選びます。川淵さんは委員会に入っていないので直接的には無関係。私は委員会のメンバーで前任者の大東和美さんから委員会の総意として内示を受けたのです。それが真実。
でも、この前、チェアマンを退任した後、川淵さんにお聞きしたんです。私の就任のタイミングあたりで次のチェアマンをどのようにお考えだったのかと。川淵さんはパルコの講演は、はっきりと覚えていらっしゃいました。そしてビジネス界での経験を持つ私の就任を好意的に受け止めてくださっていたようです。
34回もの「朝会」を通じて職員に伝えたかったこと
——村井さんから見て、川淵さんはどんな方でしょうか。
【村井】まさに「始動力」の方だと。この言葉は、明治のキリスト教学者、内村鑑三が英語で書いた『代表的日本人』という本の中に登場します。内村はこの中で西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳らを取り上げていますが、西郷隆盛を称して「始動力」の人だと紹介しています。時代を変える「スタートのピストルを打つ人」として描かれているのです。
このゼロからのスタートというのが一番力を必要とします。反発を受けるし、批判もされる。川淵さんは単にサッカーのプロリーグを立ち上げるというだけでなく、スポーツを通じて日本に豊かな社会を作ることを目指された。