永守重信の二男が語る永守重信

それだけ極端な会社人間である永守さんだが、家庭をかえりみなくても大丈夫なのか。

「べたべた長時間家族と接したらいいというものではない。私はあんまり家に帰りませんが、シンガポールへ行ったら蘭の花を送るし、家に帰ったら家族の話はちゃんと聞くようにします。今日はスーパーに行ったけど、大変なことをした。あそこでタマゴ買ったら28円だったけど、こっちは26円だったと。2円も高いもの買ってしまったとね。

エルステッドインターナショナル社長 永守知博 ながもり・ともひろ

大事なことは家族に関心を持つこと。これは会社も一緒ではありませんか。一番大切なことは、社長が社員に関心を持つことです。廊下の向こうから社員が来たと。知らん顔して通るのではなく『お~い。おまえ、まだこの会社にいるのか!』とね。要するにかける言葉はなんでもいいのです」

そんな永守さんのことを家族はどう考えているのか。二男の永守知博さんに話を聞くことができた。知博さんは、大学卒業後大手電機メーカーに就職、アメリカでMBAを取得し帰国したあと、日本電産の関連会社を経て、東京でベンチャー企業「エルステッドインターナショナル」を興し4年目。「ものづくりLOVE」を標榜し、ものづくり企業の支援を中心に積極的に海外へもビジネスチャンスを探しにいく。孤軍奮闘、日本と海外を行き来する毎日だ。

知博さんは顔もしぐさも喋り方も、父親に似ている。違うのはネクタイの色ぐらい。間違いなく、あの人のDNAを引き継いでいる。

「永守家では、のんびりしているほうがしんどい。一生懸命働かないことに、恐怖を覚えます。ゆっくりした1日を過ごして、夜布団に入ると、枕元に父親の顔がニュッと出てくる気がします。最近は父親だけでなく、母も嫁も出てくるときがあるんですが、『おまえ一人だけさぼるなよ』と、言われるんです。実際に枕元には誰もいないのに、そう感じてしまうのは、マインドコントロールとしかいいようがないです(笑)」

そんな永守家だが、食事のときなどはワイワイ賑やか。ただ聞き役が一人もいないため、会話が成立していないという。

「うちの姑がびっくりしていました。『会話が成り立っていないじゃないか』と。みんな言いたいこと言っているので、どうなっているんだ、この家庭はと」

知博さんの目標は、同族経営を許さない日本電産に対して、永守重信さん得意の「M&A」ができるぐらいの企業をつくることだという。

※すべて雑誌掲載当時

(撮影=奥谷 仁、芳地博之)