当時は「食卓の主役にならない」と売れず…

また、当時、ミートボールといえばスパゲティの具材で、牛肉を使った高価なそれだった。そして、ハンバーグだったら皿に載せれば夕食の一品になるけれど、甘酢ソースがついたミートボールを皿に載せても、夕食の一品としては成立しがたい。見た目、1個の大きさから、ミートボールはサイドメニューという印象が強い。調理の手間はいらないおかずだが、なかなか家庭の食卓には上らなかったため、売り上げは伸び悩んだのである。

発売から時間がたっても、なかなかヒットには至らなかった。だが、石井食品の営業パーソンはリサーチを繰り返した。すると、売れ行きに波があることがわかったのである。

営業統括マネージャーの伊藤は言った。

「春の4月と秋の9月になるとぐんと売れ行きが伸びたのです。考えてみたら、その時期は小学校、中学校では遠足や運動会などの行事がある。子どもたちがお弁当を持っていく時期です。それで、ミートボールをお弁当に入れているんだとわかりました」

撮影=プレジデントオンライン編集部

それなら弁当のおかずとして新たに消費者にアピールすればいい。

しつこい追跡調査を続けてロングセラーに

開発スタッフはミートボールをリニューアルすることにした。ソースを中華風の甘酢味から子どもが好きなトマト味に変え、名称を「イシイのおべんとクン ミートボール」にした。

家庭の食卓に載せるおかずではなく、弁当のおかずとして訴求することにしたのである。

「はい、おかげさまで大ヒットになりました」(伊藤)

こうして、おべんとクンはヒット商品となり、チキンハンバーグに代わる同社の主力商品になった。

おべんとクンは計画的に産まれたものではない。開発したのは石井食品だが、「お弁当のおかずに最適」と考えたのは当時のママたちだ。ママたちが使いだしたことに気づいた同社の社員たちがリニューアルを決め、味付けと名称を変えたからヒット商品になったのである。

それまでは売れ行きがはかばかしくなかったミートボールが、しつこい追跡調査を続けたことで売れるようになった。売れない商品でもちゃんとウオッチするという調査力、そして、市場の変化に対応する力が重要なのである。

子どもが食べるものはできるだけシンプルに

そして、大切なのはヒットのその後である。

同社の担当者はヒットしてからも持続的な努力を重ねた。原材料、調味料を墨守したのではなく、時代と環境に合わせて少しずつ変え、ヒット商品の寿命を長くしていった。いわば、産み落としたヒット商品を育て上げたのである。そして、今もおべんとクンの進化は続いている。

まず変わった点は主材料の鶏肉だ。