「おいしい+時短」で爆発的ヒット
石澤は「おっしゃる通りです」とうなずいた。
「真空包装にして、チキンハンバーグと一緒にソースも入れました。うちのハンバーグが出る前にも調理済みのハンバーグはありましたが、それはソースのない単体のハンバーグでした。買った人はハンバーグをフライパンで加熱して、ケチャップやソースをかけて食べたのです。うちのチキンハンバーグは買ってきたら湯煎して温めて、皿に載せたらそのまま食べられます。それで売れたんです」
チキンハンバーグは爆発的に売れた。1個50円。当時、精肉店でコロッケ1個を買うと30円だったから、鶏肉100%のソース付きハンバーグとしてはお値打ちの価格だったのである。
現在、チキンハンバーグは99円。売り出した時よりもさらにリーズナブルで、1日に2万食から3万食の製造をしている。だが、もっとも売れていた1970年代には1日に65万食も作っていたことがあった。
チキンハンバーグがヒットしたのは、なんといってもソースが付いていたことだ。他社のハンバーグのような手間がかからないから消費者に受けたのである。
このように食のヒット商品について開発者に直接、聞いてみると、「おいしいから」「素材がいいから」といった単純な理由だけで売れたわけではないとわかる。
アメリカで食べたミートボールに感動
チキンハンバーグは売れていたが、開発者たちは満足していなかった。
チキンハンバーグを横展開して、牛ひき肉、豚ひき肉、鶏肉のミンチを使った商品を次々と開発していったのである。
石澤は言った。
「横展開でいろいろやったなかで、肉団子もあるよねと、肉団子も入ってきました」
これがミートボールの誕生につながるきっかけだ。
ただし、もうひとつ、ミートボールが生まれるきっかけがある。それは当時の社長がアメリカへ行き、ミートボールを食べて、その味に感心して、買う予定のなかったミートボール造りの食品機械を買ってしまったのである。ただし、アメリカの食品機械では大きなサイズのミートボールしか作れなかったため、結局は使えなかった。あらためて機械を開発したという。
1974年、真空パック技術を利用して「イシイの中華風ミートボール」が発売された。鶏肉のミンチを丸くして、油で揚げた後、味付けをする。発売当初の商品は「中華風」の甘酢味であり、おべんとクンのようなトマト味ではなかった。パッケージも緑色を基調としたもので、食品のイメージではなかった。ちなみにチキンハンバーグのパッケージはオレンジ色だ。